文芸評論家の富岡幸一郎氏

●平成23年3月16日のビデオメッセージ
〈この度の東北地方太平洋沖地震は、マグニチュード9.0という例を見ない規模の巨大地震であり、被災地の悲惨な状況に深く心を痛めています。地震や津波による死者の数は日を追って増加し、犠牲者が何人になるのかも分かりません。一人でも多くの人の無事が確認されることを願っています。〉

「平成のまさに『玉音』放送であった。陛下は自ら原稿を作成されたという。宮城県南三陸町の津波で壊滅した地に立ち、両陛下が深々と黙礼される姿は多くの国民の心をとらえた。被災地へのお見舞いは一都六県にわたり、祈りは人々への直接の肉声となって顕わされた」(富岡氏)

●平成13年のお誕生日会見
〈この同時多発テロは、極めて多くの無辜の人々の命を失う極めて異例な事件でした。(中略)弔意伝達は、異例とのことですが、このような事件は過去にもなく、その事件そのものが異例であったと思います。

 皇室が前例を重んじることは大切なことと思いますが、各時代に前例のないことが加わっていることも考えに入れなければなりません。今回は、このことを踏まえて、侍従長を通じて駐日米国大使に弔意を伝えました。〉

「米国の同時多発テロ事件の発生後、陛下は侍従長を通して駐日アメリカ大使に弔意を伝えられたが、自然災害以外で外国にお見舞いの言葉を贈るのは前例がなかった。宮内庁や政府の意向を尊重しつつも、日本国の天皇としての意思は貫かれてきた」

【PROFILE】とみおか・こういちろう/1957年、東京都生まれ。中央大学文学部フランス文学科卒業。関東学院大学国際文化学部比較文化学科教授、鎌倉文学館館長。著書に『虚妄の「戦後」』(論創社)、『西部邁 日本人への警告』(共著、イースト・プレス)などがある。

※SAPIO 2018年9・10月号

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