妻は3000万円、子供はそれぞれ1500万円が法定相続分だが、夫の残した現金は2000万円しかない。子供の相続分(2人で3000万円)を捻出するには、家を現金化しなければならなかった(別掲図「改正前」)。
もちろん、相続人全員が承諾すれば法定相続分に従う必要はない。ただ、妻が4000万円の家を、子供たちが預貯金を1000万円ずつ受け取ると、今度は妻の手元に現金が残らない。相続後の日常生活に支障をきたす恐れもあった。
こうした問題を解決するのが「配偶者居住権」だ。別掲図の「改正後」を見ていただきたい。4000万円の家を「居住権」と「所有権」に分けて相続できるようになる。図では妻の居住権を2000万円と仮定したが、妻は別に1000万円の現金を受け取る。一方、子供たちは1000万円ずつの家の所有権と、現金を500万円ずつ相続する。
妻はもともとの家に住み続けられる上、夫の預貯金の一部を生活費に充てることができる。フジ相続税理士法人の税理士・高原誠氏はこう語る。
「これまで、遺された配偶者の当面の生活費をいかに工面するかが、実務上の大きな課題でした。高齢のケースも多く、そういった方は家の所有権の有無より、そこに住み続けられるかが重要になる。そこで、評価額を少し抑えた居住権という概念を作り出して、そのぶん手元に残せる現金を増やせるようにしたわけです」
居住権を得るには、相続開始時(夫の死亡時)にその家に住んでいることが条件となる。
「住民票を置いているかどうかといった規定はなく、生活の実態があれば認められるものと考えられます」(まこと法律事務所の弁護士・北村真一氏)