【著者に聞け】宮田珠己さん/『無脊髄水族館』/本の雑誌社/1944円
【本の内容】
著者は水族館に行くメリットが2つあると書く。〈自力ではなかなか見ることができない変な生きものが間近で見られる〉。そして動物園と比較してよくわかるもう1つのよい点が〈陰気で孤独であっても、ありのままになじめる空間であるということ〉。かくして、おじさんよ、水族館へ行こう。全国19の水族館と150種以上の海の生き物をオールカラーで紹介。読んでニヤニヤ、眺めてニヤニヤの脱力エッセイ集。
人生の路頭に迷ったら水族館へ行こう。紀行エッセイストの宮田珠己さんはそう呼びかける。
「水族館という薄暗い空間が、ほっとできるんです。ひとりぼっちでいても周りの目を気にせずにいられるし、実際、カメラを持ってひとりで水族館に来ているおじさん、多いですよ」
なかでも見るべきは、イルカでもペンギンでもなく、クラゲやイカ、イソギンチャクやウミウシなど、館内順路の後ろのほうにある無脊椎動物のゾーンだと言う。
「生き物って、イカの系統、カニの系統、というふうにだいたい分けられますけど、時々なんだかわからないものがあるんですよ。ナマコみたいだけど水槽には貝と書いてあって、全然貝に見えない。その肉の棒みたいなのが、イソギンチャクを丸のみしている。『なんだこりゃ!』って驚きますよね」
各地の水族館の、想像を絶する不思議な形・動き・生態の生き物の数々が本書では紹介される。霜降り肉が立ち上がったようなぶきみな貝(ボウシュウボラ)とか、イルカや熱帯魚に気をとられて素通りするのは確かにもったいない。
宮田さんは、やはり人生の路頭に迷う友人の営業マン「モレイ氏」を水族館に誘う。「おじさん」ふたりのおかしみのあるかけあいが本書の魅力のひとつ。そのモレイ氏によれば、宮田さんは「夢中になるとなかなか水槽から離れない」「メインアイテムと全然、別のものを見ている」そう。
「それはやっぱり、想像できない生き物に出会いたい気持ちがあるからですね。そして水槽の前でよく、『美味しそう』って言う人がいますけどそうかなあ? イカでもタコでも海にいるから大丈夫なんで、そのへんにいたら気持ち悪くて誰も食べないと思います」
言われてみれば確かにそうだ。そして、いくら気持ち悪くても、いや気持ち悪いからこそ、海の生き物の謎めいた形と動きには人の心をとらえて離さない魅力がある。
「『へんないきもの』って本がベストセラーになるくらいだから、みんな好きなんですよ。水族館ももっと無脊椎動物を打ち出して、イルカのショーではなく、気持ち悪い泳ぎ方をするウミシダのショーとかをやってほしいですね」
(取材・構成/佐久間文子)
※女性セブン2018年11月8日号