幸いにして、免震構造の建物に設置された制振ダンパーの取り換え工事は容易だ。高層マンションの低層階に設置されている数値改ざんの制振ダンパーを取り外し、基準性能を満たした製品と取り換えればいい。
ただ制振構造の建物にはめこまれた制振ダンパーは、壁に埋め込まれている。こちらの取り換え工事はやや厄介らしい。何といっても壁の一部を取り外さねばならない。ただ、それも基準を満たした製品が出来上がり、工事の段取りが整えばさほどの困難ではなさそうだ。
ここでの問題は「時間」だ。KYBの製造能力からすると改ざんされたすべての制振ダンパーの代替品を生産するには2年の年月を要するという。その2年というのも見通しに過ぎない。建物用の制振ダンパーは、大量生産できるものではない。
また、取り換え工事は病院や学校、役所など公共性が高く、不特定多数の人間が出入りする建物が優先されるはずだ。民間企業が分譲した既存マンションの優先順位が高いとは思えない。
もし、その間に震度6や7の大きな地震が起こって何らかの被害が出た場合、誰がどう責任をとるのだろう。マンションの場合、管理組合に対して法的な責任を負うのは売り主企業である。KYBではない。
ただし、これは瑕疵に当たるため築10年以上を経た物件については、売り主の責任が免除される。国交省によれば改ざんした製品が出荷されていたのは平成12年からとなっている。築10年超で17年未満のタワーマンションについて、売り主も法的にその責任を問われない。取り換えを拒否できる立場にある。そのように行動する売り主が現れるかどうかは分からないが……。