さらに深刻化しそうなのは、現在建築中のマンションだ。KYBの製品を使用する免震や制振構造のマンションは、ほとんどが超高層タイプ、いわゆるタワーマンションだ。特に免震構造の場合は建物の下層階に制振ダンパーが使用されているので、この先1年以内に竣工する予定のタワーマンションについては、ほとんどがその部分の工事を終えている。
前述したように、取り換える工事は難しくない。だが、基準性能を満たした製品の生産が追い付くのだろうか。あるいは、現在稼働中の病院や学校で取り換えるべき制振ダンパーの生産より優先されるのだろうか。普通に考えれば、建築中タワーマンション用の代替品生産が優先されるとは考えにくい。その場合、建物の竣工予定は遅れるだろう。当然、購入契約者への引き渡しも延期される。
私が聞いた限りにおいて、契約者に対して引き渡しの延期を示唆し始めているデベロッパーもあるという。販売活動は続けるものの、売買契約は停止している物件も出てきたらしい。
タワーマンションの契約者たちは、すでに新生活に向けて様々な準備をしている。保育園の申し込みや小中学校の入学や転入手続き。職場の変更に合わせて購入を決めた人もいる。あるいは、今住んでいる住戸の賃貸契約解除を通知している人もいるだろう。
仮にKYBの製品を使用して建設中のマンションの多くが引き渡し延期に追い込まれた場合、その影響を受けるのは数千家族に及ぶことも考えられる。そういう事態になった時に、売り主企業はどのように責任を取るのだろうか。
東洋ゴムの免震装置偽装事件の時には、マンション業界に大きな混乱はなかった。もちろん、いつものように国土交通省は火消しに回り、それがある程度奏功したかに見えた。しかし、今回はもう少し事件の影響が拡大しそうな気配もある。注意が必要だ。