「大規模で、追跡期間も長い。今後、イギリス以外の国でも同じような傾向が明らかになれば、日本の高血圧治療ガイドラインが推奨する治療薬が変更される可能性も出てくるでしょう」
高血圧治療が専門の岡田正彦・医師(新潟大学名誉教授)が続ける。
「国民病と呼ばれる高血圧の患者は約4300万人。そのうち、ACE阻害薬を服用しているのは9%、約200万人と推計されている。肺がんリスクが認められれば、高血圧治療の現場は混乱に陥る恐れがある」
◆咳は“良い副作用”か“悪い副作用”か
日本高血圧学会が定める「高血圧治療ガイドライン」(最新は2014年版)では、降圧作用を持つ第1選択薬として、「ACE阻害薬」「ARB」「カルシウム拮抗薬」「利尿薬」の4種類を示している。
降圧剤は「血管を広げて血圧を下げるタイプ」と、「血液量の増加を抑えて血圧を下げるタイプ」に大別される。ACE阻害薬は、血管を収縮させるホルモン「アンジオテンシンII」を作らせないことで、「血管を広げて血圧を下げるタイプ」にあたる。先述した「ARB」は同ホルモンを働かせない作用があり、効き方がよく似ている。
「ACE阻害薬には、蛋白尿を減らして腎臓を保護する作用があるので、腎臓病や糖尿病を併発している高血圧患者に処方されることが多い。また、心不全などの予後を改善する効果もあるので、心臓機能が低下した高血圧患者も服用する傾向があります」(石光医師)