降圧剤は「高血圧を根治する薬」ではなく、「高血圧を抑える薬」である。従って、一生飲み続けることになるケースが多い。
それに際して、ACE阻害薬にはコスト面の強みがある。同じ「血管拡張」のはたらきを持つARBが1錠100~140円程度に対して、ACE阻害薬は30~60円(いずれも自己負担額)。3~5倍の開きがある。
「現在、降圧剤として処方が最も多いのはARBですが、医師がARBを勧めても、経済的負担を考えると“ACE阻害薬の服用を続けたい”と希望する患者さんもいる」(北品川藤クリニック院長の石原藤樹・医師)
ACE阻害薬には副作用として“コホコホ”という「空咳が出る」ことが指摘されているが、これが“利点”として認められている側面がある。
「ACE阻害薬を服用する患者の2~3割に空咳が起こります。副作用というと“体に悪いこと”と思われがちですが、この空咳が起きることで気道の誤嚥を防げるという考え方もあるのです。そのため高齢の高血圧患者には、血圧を下げると同時に誤嚥性肺炎予防という“副産物”を期待してACE阻害薬を処方するケースがある」(同前)
他の副作用として「喉の粘膜が腫れる」ことも報告されているが、「基本的に“副作用の懸念が少ない降圧剤”とされている」(同前)という。
ではそんな“優秀な”ACE阻害薬に、なぜ肺がんリスクが指摘されたのか。論文を読んだ石原医師は、「空咳」との関連に注目した。