「ACE阻害薬を服用すると、体内に『ブラジキニン』という気道を狭くして咳を発生させるたんぱく質が増加します。それが空咳を引き起こす原因ですが、ブラジキニンには肺がん細胞の増殖を促進する働きがあるという見方もされてきた。今回の論文では、それが肺がんリスクの増加につながることを示したといえます」
◆製薬会社の見解を聞いてみた
では、別の医師は論文をどう読み解いたのか。前出・岡田医師が見解を語る。
「英国の準公的機関のデータを使った大規模調査であることは評価し、注目すべきです。ただしあくまで“ACE阻害薬の服用者に肺がん発症者が多かった”という疫学調査であって、“薬とがん発症の因果関係”には言及していない。
また、“肺がんの発症”がどの程度の進行具合だったかにも触れていないため、細胞の悪性度が低く“放置しても問題ないがん”が含まれている可能性もある。事実、論文執筆者もこの可能性を指摘しています。また、ACE阻害薬と肺がんの関連を否定する見解もあり、少なくとも現状では医学的に肺がんリスクが認められるレベルにはないと私は考えます」
製薬会社はどう受け止めているのか。ACE阻害薬で売上額首位の「タナトリル」を製造・販売する田辺三菱製薬からは回答を得られなかったが、第2位「レニベース」を製造・販売するMSDはこう答えた。
「ご指摘いただいた研究結果も含めて医薬品の安全性に関する情報を収集し、調査、検討等を踏まえて対応を行なっています」(広報部門)
※週刊ポスト2018年11月30日号