ビジネスの世界とアカデミズムの世界は必ずしもシンクロしない。つまり、頭の良い人が実業で成功するとは限らない。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏がレポートする。
* * *
かつて有名大学の教授がパチンコ台を徹底的に分析して「台」を攻略するという短編小説があった。店主ははらはらしながら教授を見守り、いよいよ球を弾き始めると、球はあっというまになくなり、教授は「1000円すった」という一言を残して去ってゆく。
誰の作品だが忘れてしまったが、久しぶりに思い出した。
10月29日付『中国新聞ネット』が伝えた記事〈清華大学“総裁班”の同級生たちがホテルを開業したが破産 負債は300万元(約4860万円) 清華大学は以下のように回答……〉を読んだ後のことだ。
中身は少し違うのだが、要するに学校で学んだことで成功できれば苦労しないという皮肉が通底している。
こちらの舞台は中国を代表する名門大学・清華大学の名を冠した「清華大学総裁班」である。
ニュースが報じられたのは、同「清華大学総裁班」を出た数名が立ち上げた事業が、10月26日、北京市海淀法院に破産を申請して受理されたことがきっかけであった。いわゆるキラキラの経歴の人々の起業が失敗して、なんとなく留飲を下げているようでもある。
さて、では「清華大学総裁班」とはどういうものなのか。『中国新聞』の記者が清華大学を訪ねると、大学側の回答は、「清華大学総裁班」はネット上の名称であって清華大学のいかなる学院にも所属していないということだった。
では、まったく看板が偽りなのかと言えばそれはそうでもない。というのも、ここで教えている教授はほとんど清華大学から派遣されているからだ。なんとも微妙というほかないが、そもそも企業の管理職を再教育するゼミだ。
応募要領には「管理職での5年以上の経験、隔月で3日間の集中講義を行い、2年間で12課程、計36日の講義で学費は6万8000元(約110万円)」とある。海外の大学のEMBA(エクゼクティブMBA)を取得できるコースもあるという。北京のメディア関係者が語る。
「名門大学の名を冠して『総裁班』などと名乗られると、いかにも凄いもののようですが、実態は箔付けのためのコースです」
この一言に尽きるようだ。