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2018.11.26 16:00  週刊ポスト

【井上章一氏書評】ベートーヴェンを美化した取り巻きに迫る

 だからこそ、シンドラーは作曲家の没後に、その愛を独占しようとする。いちばん信頼されていたのは自分だ。自分ほどベートーヴェンの偉大さを理解していた者はいない。そんな物語をまきちらすようになる。ほかの取り巻きたちをだしぬいて。

 耳の聞こえなくなったベートーヴェンは、筆談で意思の疎通をはかっていた。その記録帳は今日にもつたわっている。シンドラーは、作曲家の没後にこの帳面を改竄した。ベートーヴェンが偉大な人物になってしまったのは、そのためである。

 この本は、記録の捏造に手をそめたシンドラーの内面へ、せまっている。ベートーヴェンの神格化に腐心しつづけた男の、いたましい精神をおいかけた。あわれな男である。せめて、その偽装工作があるていどは成功したことを、シンドラーのためにことほぎたい。

※週刊ポスト2018年12月7日号

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