佐藤:ゴルゴの名はそこから来ていたんですか! でもこの体験は本当に大きかったのですね。私が作品を通じて感じていたのは、実は「人間の信頼」だったんです。古代ローマの根本概念でもある「ローマ法」の基本概念に、「合意は拘束する」という話があるんです。現在の国際法の大原則にもなっているのですが、「約束したことは絶対に守る」ということです。ゴルゴは約束を違えません。ゆえに依頼者との間で「人間の信頼」が保たれる。ゴルゴは、命中率も100%ですが、約束遂行率も100%です。
◆『ゴルゴ13』とキリスト教の終末遅延
さいとう:約束を違えないというのは、私の信念でもあるんです。原稿を落とさない、というのもそう。締め切りは仕事上の約束だからです。約束を守ることが、人間関係で最も大事だと思っているんです。
佐藤:そう見ていくと、ゴルゴが仕事を断る時は「約束を守れない」ことがわかっている時だけです。あらかじめ、できない仕事は引き受けない。信頼関係のない相手や、嘘をついている依頼も断ります。ゴルゴの「約束」が、人との信頼関係で成り立っているからですね。
さいとう:こうして『ゴルゴ13』の連載を続けているのも、読者に対して私が勝手に「面白い作品を届ける」と約束してしまったからかもしれない。読者の声をそう受け取ってしまった。だから引退はしません! 引退というのは、人生の舞台から降りるということ。本来、人間にとっての引退は死ぬことでしかない。
佐藤:もし描きたくなくなったら、それは引退じゃなくて休職というわけですね。
さいとう:わしは休職もしませんよ(笑)。勝手に引退して、そのあとすることがなくなって不安を増大させるよりは、「やれる間はやる」と覚悟を決めて、進んでいけばいい。これはサラリーマンでもなんでもそうでしょう。やりたいようにやればいい。