映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優・佐久間良子が、東映が社運を賭けて制作した映画に主演した時の思い出について語った言葉をお届けする。
* * *
佐久間良子は一九六三年、沢島忠監督の『人生劇場 飛車角』で鶴田浩二扮する主人公・飛車角の情婦・おとよを演じた。
「今まで清純派と呼ばれて、そういう役ばかりやってきましたので、これは初めてそうではない役でした。ラブシーンは八分をワンカット。自分でも演技どうのではなくて、とにかく必死にやりました。そうやって沢島監督に鍛えられましたね」
同年の田坂具隆監督による東映映画『五番町夕霧楼』で主人公の娼婦・夕子を演じたことで女優としての評価を高める。
「当時の東映は男性路線の作品が中心でしたが、この作品は女性が主役。そんな大役を果たして自分が出来るのだろうかと躊躇していたとき、東映東京撮影所の所長だった岡田茂さんに『これは絶対にやりなさい』と推され、その情熱に動かされて『応えなくちゃいけない』という想いになっていったんです。
とにかく鈴木尚之さんの脚本が素晴らしくて。技術とかそういうのは分かりませんから、鈴木さんの書かれている通りに夕子という人間を捉えて、素直な気持ちで演じました。変に技巧を使って夕子を演じようとすると、嘘になると思ったんです。
田坂監督がそうした嘘を嫌う方で。演技指導でも『余計なことは考えないで、佐久間くんがそれと思う、その素直な気持ちでやってくれ』とおっしゃっていただけたので、それで思い切ってやることができました」
『五番町~』では、映倫が佐久間のラブシーンのカットを要求してくるという一幕もあった。