「ラブシーンで私のアップを撮った時は、田坂監督からは『一人の少女が蝶々を追いながらずうっと土手を駆けていく。そうすると段々と息遣いが荒くなる。そんな風に頭の中で感じてやってごらん』とご指導いただきました。それで、素直に受け入れることができました。私が何回テストをしたら一番いい芝居ができるのかまで把握してくださっていて、演技指導も状況を言葉で語ってくださるから、とても分かりやすかったです。
田坂監督は人間的にも本当に尊敬できる方でした。誰に対しても丁寧で、画面の奥にしか映らない通行人の役の方にもちゃんと指導なさるんです。しかも、一人ずつ名前を覚えておられて。そうやって一つの画面の中でも全ての人に同じように目を向けてくださるから、いい作品ができあがったんだと思います」
東映にとっても、これは大きな賭けとなる作品だった。
「一つ大きいものを背負わされたと思います。今までみたいに『この仕事を辞めたい』とか、そういうチャランポランなことではいけないということです。社運を賭けての初めての女性映画を一か八かで私に岡田さんが与えてくださったわけですから。
封切り初日に岡田さんと劇場で観た時のことは今でも鮮明に覚えています。場内は満員だったのですが、『終』の字が出て上映が終わっているのに、お客さんが全く出てこないんですよ。泣いて感動してしまって、座席から動けなかったようなんです。それを知って岡田さんも目に涙を浮かべていました」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2018年12月14日号