もともとコインには偏りがないから、表も、裏も、出る確率は1/2(2分の1)ずつだ。そのため、AさんもBさんも、8つのパターンのうちどれを選んでも、有利になったり不利になったりすることはないような気がする。「どのパターンも出る可能性は同じだろうから、難しく考えずに、適当に選ぼう」という感じで、パターンのうちの1つを選んでしまいそうだ。
ところが、具体的な事例を考えてみると、このゲームには、パターンの選択しだいで、大きな有利・不利が潜んでいることがわかる。
たとえば、Aさんが(H H H)のパターンを選んだときに、Bさんが(T H H)を選んだとしよう。
この場合、ゲームを開始して、最初の3回のコイン投げで、立て続けにHが出たときには、もちろんAさんの勝ちだ。だが、それ以外のときは、すべてBさんが勝つことになる。
なぜか? ゲームを開始して、最初の3回のコイン投げのなかで1度でもTが出ると、その後、どこかで(H H H)のパターンが現れるためには、まずHが2つ続けて出なくてはならない。ところが、その2つのHの前にはTが出ているため、2つめのHが出た時点で、(T H H)のパターンが先に現れることになるからだ。
つまり、Aさんが(H H H)を選んだときには、Bさんは(T H H)を選ぶことにより、勝つ確率を格段に高めることができる。この場合、Aさんの勝つ確率が1/2の3乗で1/8なのに対して、Bさんの勝つ確率は1から1/8を引いて7/8となる。Bさんが勝つ確率は、Aさんが勝つ確率よりも、7倍も高くなるのだ。
実は、このゲームは、パターンを先に選ぶAさんよりも、Aさんの選択を見た上でパターンを選ぶBさんの方が、必ず有利になる。後手のBさんが選択を間違えなければ、「後手必勝」とまでは言えないが、後手がかなり有利になるゲームなのである。
Aさんの選んだパターンに対して、Bさんが勝つために選ぶべきパターンは、つぎのようになる。
※左から「Aさんが選んだパターン」「Bさんが選ぶべきパターン」「Aさんが勝つ確率(a)」「Bさんが勝つ確率(b)」「(b)/(a)」だ。
(H H H)(T H H)1/8 7/8 7倍
(H H T)(T H H)1/4 3/4 3倍
(H T H)(H H T)1/3 2/3 2倍
(H T T)(H H T)1/3 2/3 2倍
(T H H)(T T H)1/3 2/3 2倍
(T H T)(T T H)1/3 2/3 2倍
(T T H)(H T T)1/4 3/4 3倍
(T T T)(H T T)1/8 7/8 7倍
Aさんの選択に対して、Bさんは、うまくパターンを選べば、勝つ確率を少なくとも2倍、最大で7倍にまで引き上げることができる。有利・不利がないどころか、後手のBさんがかなり有利になる偏ったゲームといえる。