このスープラ1モデルで日本市場を活気付けることができるとは、当のトヨタも考えてはいまい。トヨタは2012年、スバルと共同開発した2リットル級スポーツカー「86」を発売した。
企画に関わっていたトヨタマンの一人は、「こういうクルマを出すことで、若者を含め多くの人たちがクルマの楽しさにもう一度目を向けていただきたい」と語っていたが、現実は厳しかった。コアなクルマファンの間ではしばらく話題になったものの、クルマ離れの流れを止めることにはほとんど役に立たなかったのである。
では、スープラはどうか。商業的にはもちろん難しいだろう。公道の制限速度が先進国の中ではブッチギリに低い日本は、そもそもスポーツカーを楽しく走らせられるような環境ではない。しかも、86とも比較にならないくらいの高速車になるのが確実なスープラは、合理性で選ばれるようなモデルではない。当然数は期待できない。
それでもトヨタがスポーツモデルを出すのは、豊田章男社長がスポーツカー好きで、ユーザーにクルマは楽しいものだと再び感じてもらう起点になる──と信じているのが大きい。そのハードウェア偏重の考え方が当たっているかどうかは別にして、日本市場を決して諦めないという気持ちを持っていることは存分に伝わってくる。
もっとも新型スープラくらい気合の入ったモデルは、活用法によってはクルマに興味を持ってもらうツールに十分なり得る。その方法のひとつはカーシェアだろう。スープラのスポーツという記号性で顧客を引き寄せ、半日程度の短い時間でもいいので、リーズナブルな価格でドライブの自由さを体験してもらうのだ。
そんな単純なことのために、と思われるかもしれない。だが、自動車メーカーが今日、一番頭を悩ませているのは、ユーザーがそもそも自動車を運転してみるという“第一歩”を踏み出してくれないということだ。そんな高い敷居をまたがせるのに有効な手段のひとつは、「ドライブに興味はないけど、面白そうだから一度くらい運転してみようかな」と、思わせるだけの吸引力のあるクルマを用意することだ。