国内

知能犯捜査の取り調べテクニックを元刑事告白

知能犯捜査での取り調べテクニックとは?

 警察の内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た警官の日常や刑事の捜査活動などにおける驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、元刑事が知能犯捜査の取り調べについて回顧。

 * * *
「相手によっては取り調べの時、こっちの方が偉いんだって思わせるために、調べ室の椅子を被疑者より高くしておくんだよ」

 元刑事はそう言って、取り調べの時によく使ったという手について話してくれた。椅子に高低差をつけるのは、調べ官の方が上位者だと示すためである。「相手によっては…」と前置きしたのは、元刑事が知能犯捜査を長く担当してきた刑事だったからだ。

 警視庁HPの職種では、刑事警察として知能犯捜査を「贈収賄、振り込め詐欺をはじめとする詐欺、横領、背任などの知能捜査を担当」と紹介している。そのため暴力団や半グレによる振り込め詐欺から議員の選挙違反、企業経営者の贈収賄や特別背任まで知能犯の捜査は幅広い。

「調べ室に先に座らせておくのもそのためだ。だが、こっちの方が偉いんだと示すためには、先に座らせておくだけではなく、調べ官が入ってきたら、立ち合いの警察官に『調べ官殿に礼』と言わせ、被疑者を立ちあがらせて礼をさせる。調べを終える時も同じだね」

 経営者や議員、弁護士などを調べる時は、相手より上位にいるのは自分のほうだとアピールするため、こんな手も使っていたという。

「今はそんなことをしたら大変だけどね」

 そう前置きをすると、念を押すようにこちらの目をのぞき込んでから、元刑事は話を続けた。

「企業の経営者を逮捕するだろう。一緒に幹部や秘書も逮捕したとする。経営者を調べている最中、隣の部屋から大きな音がガンガン聞こえてきたり、『この野郎、バカ野郎!』と怒鳴り声が聞こえてくるんだ。そうすると被疑者の顔がどんどん強張ってくる」

 被疑者の中で、正直に話さなかったらと…いう不安感が膨らんでいく。これには、自分を担当している調べ官は紳士的なのだと思わせる効果もあるという。

「時には、こっちも聞こえてくる声に負けられないと怒鳴る。隣との怒鳴り合いで、そのうち声が出なくなったりしてね。被疑者を叩くわけにはいかないから、調べ室の壁や机を蹴飛ばしたりしてドンドン、ガンガン音を立てて」

 ところがこれは刑事の芝居。実際、隣の部屋同士で取り調べは行われていなかったという。被疑者を動揺させる効果を狙っていたのだ。

「調べ室に上司が回ってきて、『これじゃあ自供するわけないじゃねえか』って言われて、改めてまた怒鳴る。そうやって気合を入れてやっと吐かせたってこともあるよね」

 元刑事が芝居をしたことは他にもあった。

「取り調べの立会い入った時のことだが、『お前の立会いが悪いからこいつが吐かないんだ。だからお前を叩く』と言われて、調べ官に叩かれたことがあったね。調べ官が部屋から出ていなくなると、被疑者が『すみませんでした』って謝るような感じになって、少し心を開いてくれるんだ」

 取り調べ前の申し合わせで、芝居することになっていたのだ。

「それもみんな計算なんだけどね」

 その時のことを思い出したのか、元刑事は頬を指で軽くこすりながら笑った。

 だが、このような取り調べも「志布志事件」の後から行われなくなる。

 志布志事件とは2003年、鹿児島県議選での公職選挙法違反の罪に問われた12人の被疑者全員が、県警に親族の名前や家族からのメッセージに見立てた紙を無理やり踏ませる「踏み字」や自白を強要させられたと訴え、無罪になった事件だ。

「被疑者に恐怖心を与えるなどの調べは、監督対象行為として処分されるようになったからね」

 元刑事は息をひとつ大きく吐くと、視線をテーブルに落とした。

「以前は議員を調べる時は、『いつまでもバッジつけてんじゃねーよ』と議員バッジを外させていた」

 取り調べでバッジを外させるのは、議員としてのプライドを剥がす常套手段だったという。

「弁護士を取り調べる時も、弁護士バッジを外させていたと聞いたけど、今でも外させているのかどうか。とにかくこっちが知らないことを話してもらうには、高圧的に出るだけでなく、相手の気持ちを和ませたり、笑わせたり泣かせたり、いろんなことをやったんだ」

 思い出すように元刑事は遠い目をした。

「今は?」と問いかけると、その目がこちらをキッと見た。そして何度も頷きながら真面目な声音でこう答えた。

「紳士的に取り調べをしてますよ」

関連記事

トピックス

大谷の「二刀流登板日」に私服で観戦した真美子さん(共同通信)
「私服姿の真美子さんが駆けつけて…」大谷翔平が妻を招いた「二刀流登板日」、インタビューに「今がキャリアの頂上」と語った“覚悟と焦燥”
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKIが結婚を発表した(左・Instagramより)
《お腹にそっと手を当てて》ひとり娘の趣里は区役所を訪れ…背中を押す水谷豊・伊藤蘭、育んできた3人家族の「絆」
NEWSポストセブン
過去にも”ストーカー殺人未遂”で逮捕されていた谷本将志容疑者(35)。判決文にはその衝撃の犯行内容が記されていた(共同通信)
《前科は懲役2年6か月執行猶予5年》「ストーカーだけでなく盗撮も…」「5回オートロックすり抜け」公判でも“相当悪質”と指摘された谷本将志容疑者の“首締め告白事件”の内幕
NEWSポストセブン
硬式野球部監督の退任が発表された広陵高校・中井哲之氏
【広陵野球部・暴力問題で被害者父が告白】中井監督の退任後も「学校から連絡なし」…ほとぼり冷めたら復帰する可能性も 学校側は「警察の捜査に誠実に対応中」と回答
NEWSポストセブン
隆盛する女性用ファンタジーマッサージの配信番組が企画されていたという(左はイメージ、右は東京秘密基地HPより)
グローバル動画配信サービスが「女性用ファンタジーマッサージ店」と進めていた「男性セラピストのオーディション番組」、出演した20代女性が語った“撮影現場”「有名女性タレントがマッサージを受け、男性の施術を評価して…」
NEWSポストセブン
海外SNSで大流行している“ニッキー・チャレンジ”(Instagramより)
【ピンヒールで危険な姿勢に…】海外SNSで大流行“ニッキー・チャレンジ”、生後2週間の赤ちゃんを巻き込んだインフルエンサーの動画に非難殺到
NEWSポストセブン
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
〈# まったく甘味のない10年〉〈# 送迎BBA〉加藤ローサの“ワンオペ育児”中もアップされ続けた元夫・松井大輔の“イケイケインスタ”
NEWSポストセブン
Benjamin パクチー(Xより)
「鎌倉でぷりぷりたんす」観光名所で胸部を露出するアイドルのSNSが物議…運営は「ファッションの認識」と説明、鎌倉市は「周囲へのご配慮をお願いいたします」
NEWSポストセブン
逮捕された谷本容疑者と、事件直前の無断欠勤の証拠メッセージ(左・共同通信)
「(首絞め前科の)言いワケも『そんなことしてない』って…」“神戸市つきまとい刺殺”谷本将志容疑者の“ナゾの虚言グセ”《11年間勤めた会社の社長が証言》
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
“タダで行為できます”の海外インフルエンサー女性(26)が男性と「複数で絡み合って」…テレビ番組で過激シーン放送で物議《英・公共放送が制作》
NEWSポストセブン
谷本容疑者の勤務先の社長(右・共同通信)
「面接で『(前科は)ありません』と……」「“虚偽の履歴書”だった」谷本将志容疑者の勤務先社長の怒り「夏季休暇後に連絡が取れなくなっていた」【神戸・24歳女性刺殺事件】
NEWSポストセブン
野生のヒグマの恐怖を対峙したハンターが語った(左の写真はサンプルです)
「奴らは6発撃っても死なない」「猟犬もビクビクと震え上がった」クレームを入れる人が知らない“北海道のヒグマの恐ろしさ”《対峙したハンターが語る熊恐怖体験》
NEWSポストセブン