グラビア写真界の第一人者、渡辺達生氏(69)が“人生最期の写真を笑顔で撮ろう”とのコンセプトで立ち上げた『寿影』プロジェクト。渡辺氏は、自然な笑顔を引き出すべく、撮影する人に「一品」を持ってきてもらって、それにまつわるエピソードを聞きながら撮影する。
エッセイストで画家、ワイナリーオーナーの玉村豊男氏(73)が持ってきたのは、イスラエルのソドムで拾った塩の塊。
1983年にイスラエルに旅した際、死海のほとりにあったソドムという地名看板がある場所で拾った塩の塊である。旧約聖書ではソドムの町が滅亡する時、預言者ロトの一家だけが逃げることを許されたが、振り返ってはいけないという命に背いて振り向いたロトの妻は塩の柱になった、という伝説がある。
「“過去を振り返るな”という戒めとともに、ずっと書斎の机の傍らに置いています」
41歳で大量吐血、現在は肝がんを患う。「今は病巣を飼いならしている」と語るが、ずっと意識してきたのは死であり、日々の暮らしの大切さだ。
「いつものように些事を片づけ、犬と散歩に行く。食事を作り、夜にはワインを飲みながら馬鹿話をして眠る。そんな日常が最期まで続けられたら最高に幸せだ」