ライフ

阿川佐和子が描く、介護の「暗いイメージ」を一変させる小説

『ことことこーこ』を上梓した阿川さん(撮影/藤岡雅樹)

【著者に訊け】阿川佐和子さん/『ことことこーこ』/角川書店/1620円

【本の内容】
 結婚10年目にして離婚、両親の暮らす実家に帰ってきた香子。弟夫婦とその子供が帰ってきた正月、最初に感じたのは、母・琴子のちょっとした異変だった。「お前たち、気付いているかどうか知らないが」と前置きしながら父が言う。〈母さんは呆けた、母さんは呆けた、母さんは呆けた!〉。認知症が徐々に深刻化していくなかでも、落ち込むばかりではなく、明るく奮闘する香子の姿を描く介護小説。

 漢字で書くと、「琴子と香子」。38才の香子は、離婚して10年ぶりに戻った実家で母琴子の異変に気づく。どうやら母は認知症になったらしいのだ。フードコーディネーターの仕事を始めたばかりの香子は、周りの助けも借りて、つまずきながらも介護に仕事に奮闘する。

 阿川さん自身も、2015年に父を看取り、今も認知症の母を介護するなかで書いた、「明るい介護小説」である。

「認知症を扱った映画も小説も、胸が痛くなるものが多いでしょう? 私が書くなら、明るい話を書けないかな、と。幸い、うちの母は明るい認知症なので(笑い)。もちろん初めのうちは『こんな母じゃなかった』と思うこともありましたし、母自身も苦しかったりしたでしょうけど、つい笑っちゃうようなことも多くて。そういう面白い面も書けたらな、って。そのほうが自分も救われますしね」

 おいしそうな家庭料理がいくつも出てくる、魅力的な料理小説でもある。母と娘をつなぐのは台所の記憶で、母のメニューが娘の仕事に新しい展開をもたらす。小説に出てくるレシピのなかには、実際に阿川さんのお母さんが作っていたものもあるそうだ。

「母は結婚するまでほとんど料理をしたことがなかったそうですけど、とにかく父が、あれ作れ、これ作れってうるさくて。当時は珍しかったオックステールシチューやタンシチューなんかも作れる人でした。そんな母を、私も小学校のころから手伝ってたんです」

 愛する母の変貌に驚き、ショックを受けつつも、香子はなんとか態勢を立て直し、今の暮らしを守ろうとする。小説では、香子の視点だけでなく、記憶を失い、家に帰れなくなったりする母琴子が見ている世界も描かれ、なるほど、と目を開かされる。

「『TVタックル』に出てくださったある専門家が、『徘徊する側にもちゃんと理由があるんですよ』とおっしゃって、そうかもしれないと思ってね。介護って、する側の都合がどうしても優先されますけど、想像にすぎないとはいえ、される側の気持ちというのを描くことで光の当て方が変わるんじゃないかと思いました」

◆取材・構成/佐久間文子

※女性セブン2019年2月7日号

関連記事

トピックス

モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁/時事通信)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
運転席に座る広末涼子容疑者
《事故後初の肉声》広末涼子、「ご心配をおかけしました」騒動を音声配信で謝罪 主婦業に励む近況伝える
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン
レッドカーペットを彩った真美子さんのピアス(時事通信)
《価格は6万9300円》真美子さんがレッドカーペットで披露した“個性的なピアス”はLAデザイナーのハンドメイド品! セレクトショップ店員が驚きの声「どこで見つけてくれたのか…」【大谷翔平と手繋ぎ登壇】
NEWSポストセブン
鶴保庸介氏の失言は和歌山選挙区の自民党候補・二階伸康氏にも逆風か
「二階一族を全滅させる戦い」との声も…鶴保庸介氏「運がいいことに能登で地震」発言も攻撃材料になる和歌山選挙区「一族郎党、根こそぎ潰す」戦国時代のような様相に
NEWSポストセブン
竹内朋香さん(左)と山下市郎容疑者(左写真は飲食店紹介サイトより。現在は削除済み)
《浜松ガールズバー殺人》被害者・竹内朋香さん(27)の夫の慟哭「妻はとばっちりを受けただけ」「常連の客に自分の家族が殺されるなんて思うかよ」
週刊ポスト
真美子さん着用のピアスを製作したジュエリー工房の経営者が語った「驚きと喜び」
《真美子さん着用で話題》“個性的なピアス”を手がけたLAデザイナーの共同経営者が語った“驚きと興奮”「子どもの頃からドジャースファンで…」【大谷翔平と手繋ぎでレッドカーペット】
NEWSポストセブン
サークル活動に精を出す悠仁さま(2025年4月、茨城県つくば市。撮影/JMPA)
《普通の大学生として過ごす等身大の姿》悠仁さまが筑波大キャンパス生活で選んだ“人気ブランドのシューズ”ロゴ入りでも気にせず着用
週刊ポスト