『本麒麟』は大ヒットに
──その後、1994年をピークに、ビール市場は14年連続で縮小していきます。
布施:確かに「酒離れ」が指摘されるなか、市場全体として厳しい状況が続いています。ただし、社会の変化だけを言い訳にしてはいけないでしょう。
私は2015年に社長に就任しましたが、社内には成果が出ないことを人のせいにする“他責”の文化が蔓延していると感じました。「商品開発が悪い」「いや営業戦略がブレている」と言い合う状況があった。
社の歴史を振り返ってみると、「一番搾り」がヒットし、しばらくしてまた低迷、1998年の発泡酒「淡麗」、2005年の第3のビール「のどごし〈生〉」も同じようにヒットしてまた低迷。2009年にトップを奪還して以降、再びシェアが下がり続けました。要は、いつも一時的に新商品で助けられてきたわけです。これまでのキリンの悪いところは、ヒット商品が出ると安心、慢心し、また元に戻ってしまうことだった。
そこで一昨年の後半、「我々は長期的な負け戦の中にいる」と社員に強く訴えました。
負の流れを止めるのは大変です。私は「会社一丸となってお客様のことを一番に考える会社になろう」と繰り返し言い続けました。現場が主役、本社はサポートで、本社→現場という組織ピラミッドをひっくり返そうと。それは現場を回っていた若い時代や、その後の大阪支社長時代の教訓から来ています。
組織は、働く社員のマインドが上向きになれば一定の成果は出る。そしてそこに良い戦略が組み合わされば掛け算になって、より良い流れが広がっていく──そう考えています。
特に営業部門には厳しく言いました。かつて15あったビール工場を9拠点に再編し、生産部門に相当な痛みを強いたのに対し、営業部隊は変わっていないじゃないかと。こうした危機意識を全社員で持たなければ変革などあり得ません。