『一切なりゆき』など希林さんの名言集が売れていますが、面白いのは「そんな身も蓋もないこと言っちゃうのか」という内容も多いこと。こういう名言本は得てして自己啓発チックで綺麗事だらけになってしまいがちですが、彼女の場合はまるでそうならない。その言葉は非常に現実的です。
特に「ゆとりとはどういうところから出ているか」という項は素晴らしい。
希林さんは、自分のことを「夫(内田裕也)の比ではないほど喧嘩っ早い」と自己分析してるんですね。それをわかったうえで、そういう自分の性格を変えずに芸能界で生きるためには、どうすればいいかを考えた。その結果が不動産を持ち、家賃収入を得ることだった。万が一のことがあっても、映画界、芸能界の権力者におもねらなくても生きていける自信が自分の強さだと、客観的に話すわけです。
ある種のえげつなさを感じる哲学、これが今までの人生論にはなかったものじゃないでしょうか。
もうひとつ、クールで痺れた言葉があります。
【それは依存症というものよ、あなた。自分で考えてよ】
「老い」や「死」について聞くメディアに向かって、希林さんはこう言います。「死をどう思いますか」なんて聞かれても、死んだことがないからわからない、自分がそういう取材を受けるメリットがない、とも。希林さんの言葉をありがたがる人への全否定とも言えるんですが、だからこそ心を打つんです。
今や、世間には名言が溢れていて、もはやそういうものに我々は飽き飽きしている。だからこそ、「名言なんて吐く気はない、たまたまそういう人生を生きてきただけだ」という希林さんの言葉が、価値を持ってきているんです。
※週刊ポスト2019年2月15・22日号