なぜ彼女の言葉は心に響くのか
【当たり前に歳をとっていきたい】
これも彼女らしい地に足のついた言葉です。日本のベテラン女優の多くは若くあり続けようとアンチエイジングに腐心するが、希林さんはそれを潔しとしない。いくら顔の皺を引っ張ったり化粧をして老いを隠しても、それがある種のグロテスクさを帯びてしまうことに気づいていたわけです。
なぜ希林さんがチャーミングであり続けられたかというと、アンチ・アンチエイジングを提唱して「老い」を受け入れたからではないか。だから近年ますます重要になってきているお祖母さん役に、彼女がピタリとはまったのだと思います。
【みなさんがおやりにならないのなら、やらせていただきます】
彼女の仕事観がよくわかる言葉です。彼女は若い頃、いち早くCMで活躍しました。当時は役者にとって舞台が一流、映画やラジオは二流、テレビに出るのは三流と言われた時代。そういう社会的な格付けをものともしない、反骨心とフロンティアスピリッツがあった。本人は“あまのじゃくだから”と自らを評していますが、どんな物事とも固定観念に囚われず向き合える芯の強さを感じます。もちろん、「自分の居場所を確保するためにはどうすればいいか」を考え抜いた結果でもあるでしょう。私自身も見習いたい仕事への取り組み方です。
また、希林さんは、
【楽しむのではなく、面白がること】
とも言っている。高杉晋作の辞世の句「面白きことのなき世を面白く」とも似ています。楽しむというのは客観的だけど、「面白がる」のはもっとポジティブ。俯瞰で物事を見るニヒリズムさとポジティブさの両立が彼女の魅力でした。