国内

世田谷の校則ゼロ公立中、授業中に廊下で自習してもOK

桜丘中学校の西郷孝彦校長

 いじめが激減、校内暴力も消え、有名校進学数も平均学力も区のトップレベル──。私立中進学率の高い東京都世田谷区で、「越境してでも行きたい」と人気となっている公立中学校が、世田谷区立桜丘中学校だ。

 歴代の校長が「一日でも早く異動したい」と嘆息するほど荒れた同校で、2010年に就任したのが西郷孝彦校長(64才)。足かけ9年を費やして、自由にして多様な学校をつくり上げた。

 窮屈な規則が苦手だという西郷校長は、納得のいかない校則の一つひとつを検証、ついには全廃してしまったという。

◆授業中に教室の外にいてもいい

 午前11時、教室では授業の真っ最中。国語のクラスでは先生の読み上げる百人一首を血眼になって奪取する声が響き、美術のクラスではクラフト模型を組み立てる生徒たちの熱気が廊下まで伝わってくる。英語の授業時間にバスケットボールの試合や調理実習をすべて英語だけで行うクラスも。

 しかし廊下には、そのどれにも属さない生徒の姿が数人。

「教室にいるのが嫌だったり、入りづらかったりした時は、生徒の判断で、廊下で自習して構いません」

 職員室前の廊下には机とイスが並び、そこでタブレットを使って動画を見ながら自習したり、英語のテキストを解いたりする生徒たちの姿がある。その様子を、ヒト型ロボットのペッパーが静かに見守っていた。

 校舎1階の理科室では、3Dプリンターを使って両生類の心臓を再現する授業が行われていた。4人ずつの班に分かれた生徒たちがパソコンのソフトを操って心臓の構造をデザインすると、3Dプリンターがカタカタと音を立て、立方体の模型を作り出す。テーブルのあちこちから「デザイン通りだ」と歓声があがる。

 この授業を担当するのは、理科の長田浩貴先生。2年前、この学校で教師生活をスタートさせたばかりだ。

「大学時代に3Dプリンターの研究をしていて、いつか授業に採り入れたいと考えていたんです。そう西郷校長に話したら、『やってみなよ、失敗してもいいから』と背中を押してくださったんです。こんなに早く実現するとは思いませんでした」(長田先生)

 失敗どころか、新しい試みの成果は上々。

「単に教科書を読むだけではなく、リアルな模型を作ることで、心臓の働きを理解してほしかったんです。そのうえで、もし心臓模型の構造を改善するとしたらどうすればいいか、自分たちで考えてほしかった。実際、生徒たちから挙がってきたアイディアは、ぼくの想像以上。発表を聞きながら、鳥肌が立ちました」(長田先生)

 なかでも熱心に3Dプリンターを見つめていたのは、2年生のエイジくん(仮名)。このクラスの生徒ではない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

グリーンの縞柄のワンピースをお召しになった紀子さま(7月3日撮影、時事通信フォト)
《佳子さまと同じブランドでは?》紀子さま、万博で着用された“縞柄ワンピ”に専門家は「ウエストの部分が…」別物だと指摘【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
一般家庭の洗濯物を勝手に撮影しSNSにアップする事例が散見されている(画像はイメージです)
干してある下着を勝手に撮影するSNSアカウントに批判殺到…弁護士は「プライバシー権侵害となる可能性」と指摘
NEWSポストセブン
亡くなった米ポルノ女優カイリー・ペイジさん(インスタグラムより)
《米ネトフリ出演女優に薬物死報道》部屋にはフェンタニル、麻薬の器具、複数男性との行為写真…相次ぐ悲報に批判高まる〈地球上で最悪の物質〉〈毎日200人超の米国人が命を落とす〉
NEWSポストセブン
和久井学被告が抱えていた恐ろしいほどの“復讐心”
「プラトニックな関係ならいいよ」和久井被告(52)が告白したキャバクラ経営被害女性からの“返答” 月収20〜30万円、実家暮らしの被告人が「結婚を疑わなかった理由」【新宿タワマン殺人・公判】
NEWSポストセブン
民放ドラマ初主演の俳優・磯村勇斗
《ムッチ先輩から1年》磯村勇斗が32歳の今「民放ドラマ初主演」の理由 “特撮ヒーロー出身のイケメン俳優”から脱却も
NEWSポストセブン
松竹芸能所属時のよゐこ宣材写真(事務所HPより)
《「よゐこ」の現在》濱口優は独立後『ノンストップ!』レギュラー終了でYouTubeにシフト…事務所残留の有野晋哉は地上波で新番組スタート
NEWSポストセブン
山下市郎容疑者(41)はなぜ凶行に走ったのか。その背景には男の”暴力性”や”執着心”があった
「あいつは俺の推し。あんな女、ほかにはいない」山下市郎容疑者の被害者への“ガチ恋”が強烈な殺意に変わった背景〈キレ癖、暴力性、執着心〉【浜松市ガールズバー刺殺】
NEWSポストセブン
英国の大学に通う中国人の留学生が性的暴行の罪で有罪に
「意識が朦朧とした女性が『STOP(やめて)』と抵抗して…」陪審員が涙した“英国史上最悪のレイプ犯の証拠動画”の存在《中国人留学生被告に終身刑言い渡し》
NEWSポストセブン
早朝のJR埼京線で事件は起きた(イメージ、時事通信フォト)
《「歌舞伎町弁護士」に切実訴え》早朝のJR埼京線で「痴漢なんてやっていません」一貫して否認する依頼者…警察官が冷たく言い放った一言
NEWSポストセブン
橋本環奈と中川大志が結婚へ
《橋本環奈と中川大志が結婚へ》破局説流れるなかでのプロポーズに「涙のYES」 “3億円マンション”で育んだ居心地の良い暮らし
NEWSポストセブン
10年に及ぶ山口組分裂抗争は終結したが…(司忍組長。時事通信フォト)
【全国のヤクザが司忍組長に暑中見舞い】六代目山口組が進める「平和共存外交」の全貌 抗争終結宣言も駅には多数の警官が厳重警戒
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《前所属事務所代表も困惑》遠野なぎこの安否がわからない…「親族にも電話が繋がらない」「警察から連絡はない」遺体が発見された部屋は「近いうちに特殊清掃が入る予定」
NEWSポストセブン