もしそこに親が住んでいれば、“実家に預けている”とか“近所に遊びに出かけている”とか言い訳をしても、雰囲気で察することはできます。しつこく訪問して、いずれ安否が確認できるケースがほとんどです。もし虐待が疑われれば、児相などに通報します。
問題は、住民票のある住所から親子が忽然と消えているケース。そうなったら、子供の居所を捜し出すのは、雲を掴むようなものです」
今回の調査では、昨年11月時点で、そうした「所在不明児」が「2936人」に上ったのだ。
◆窃盗を繰り返す夫婦のホテルに子供がいた
2936人の内訳は、未就学児(0~6才)が全体の約85%を占め、小学生が8%、中学生が5%と続いた。児童虐待に詳しいジャーナリストの石川結貴さんが指摘する。
「小学生や中学生になれば、学校の問題もあって、親が子供を連れて転々とするのは難しい。しかし、未就学児であれば親は“道連れ”にしやすいし、そもそも子供がSOSの声を上げにくい」
ただし、所在不明児だからといって、虐待を受けているとは限らない。たとえば、子供が外国人とのハーフで二重国籍のまま出国している、届け出を出さないで親の海外赴任に連れて行った、借金取りから逃げるために住民票はそのままで“夜逃げ”したというケースもある。
「過去には、夫と不仲になった妻が子供を連れて、出会い系で知り合った男のもとに転がり込んだ例がありました。他にも、お母さんが風俗関係の仕事をしていて、幼い子供を連れて店の寮に入っても、住民票は移さないので、『所在不明児』になった例もありました」(石川さん)
児童虐待防止に取り組むNPO法人「CAPNA」の萬屋育子理事長が指摘する。
「親の経済的困窮と、子供への虐待やネグレクトは、関連があります。つまり、住民票を残したまま、他の地域に家族ぐるみで移る場合、何かしらで苦しんでいる親が多く、子供もよくない環境に置かれている可能性があります。
しかし、今の日本には、住民票の住所にいない『所在不明児』を捜し出す機関は存在しません。家族が捜索願を出せば警察が受けつけますが、家族ごといなくなってしまうと打つ手がありません。子供の欠席が続き、学校が家庭訪問して家族がいなくなった状況を把握しても、教育委員会に報告がいくだけで、“どこに消えたのか?”と家族の行方を捜す人は誰もいないんです」
そういう「所在不明児」が生きたままで保護されるのは、萬屋さんいわく、「幸運なこと」なのだという。