中学と同じ敷地内には女子美術大学の杉並キャンパスも
◆伸び伸びと過ごさせたい
四谷大塚に聞いてみると、女子美はもっとも第一志望率が高い学校だという。そのデータ通り、偏差値に関係なく「好き」で受験してくる子どもが多く、合格すれば抜けないから繰り上げを出すこともない。ほとんどの受験生は多くの学校を受け、少しでも偏差値の高いところに進学するので、繰り上げを出す学校が多いのとは対照的だ。
実際に知り合いの女子美の先生に聞いてみたところ、学校説明会ではこんな話をしているという。
・美術は何もないところから何かを生み出していくこと
・作品に取り組むことは答えのない問題を解決していくこと
・いいものをたくさん観て鍛えられた感性が斬新な発想を生むこと
はからずもAIの発達するこれからの時代に必要とされる能力、資質について語っていることがわかる。ちなみに、卒業生の仕事を見ると、8割以上がMacやiPadを使って仕事をしているため、今年の入学生から全員にiPadを持たせるという。
一方、昔からのこんな面もある。受験前の夏、秋にある体験教室に来ている受験生が多く、一人ひとりがそれぞれの作品制作に向きあい、それを教員がかがんでアドバイスするという。そうした光景を目にした保護者が、この学校に入学したら、わが子も親身に接してもらえるのではないかと安心するようだ。
中入生と高入生の扱いも、女子美では高1の最初から混合クラス。「学習効率が悪い」という声も出ない。ギスギスした保護者がいないのである。
同じものを好きなもの同士、どこか同じ匂いがするので、人間関係で問題が生じたこともない。作品制作を通じて別々が当たり前と思っているので、女子同士の難しい人間関係もない。
何より「わが子を伸び伸びと過ごさせたい」という保護者がいて、「そうした方に選んでいただけているようだ」という学校の話が象徴するように、ひたすらわが子に期待をかける価値観とは異なる保護者がいるという証だ。
われわれはつい、「中学受験は“期待値”で学校選びする世界」と一色に捉えがちだが、保護者のほうがわが子のことをきちんと見つめ、それゆえの多様化も進んでいるようである。