ライフ

【平山周吉氏書評】新しい「戦争と平和」論を予感させる本

『未来の戦死に向き合うためのノート』/井上義和・著

【書評】『未来の戦死に向き合うためのノート』/井上義和・著/創元社/1600円+税
【評者】平山周吉(雑文家)

「市ヶ谷・九段・知覧」は日本の近現代史にとって、なかなか剣呑な場所である。それぞれは「自衛隊・戦死・特攻」を象徴する地名である。三ヶ所を巡って、「このいびつな三角形の意味」を問いかけたのが井上義和・帝京大准教授の『未来の戦死に向き合うためのノート』である。

「市ヶ谷」の防衛省の敷地には殉職自衛官慰霊碑があり、そこには千九百六十四柱が眠っている。一般国民が訪れることもなく、ひっそりと。自衛隊がさまざまな救援活動によって認知されたとはいえ、やはり所詮は「日陰」の存在である。それでいいのだろうか。

 際どいテーマなのに、著者の筆致はむしろ飄々としている。力瘤は一切入っていない。押しつけがましさもない。目を瞑って祈ればいいといった戦後の「平和」観だけではすまされないのではありませんか。一緒に考えませんか、と誘っている。自衛官に「命を賭け(させ)る任務を与えておきながら、戦死を想定外に押しやる思考のほうが、よっぽど危険で無責任」だと思いませんか、と。

 著者も寄稿している『戦争社会学ブックガイド』という本がある。戦争を「歴史」や「反省」の枠に限定するのではなく、知的関心のもとに可視化する柔軟な試みで、その延長上に本書は成っている。

関連キーワード

関連記事

トピックス

国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
普通のおじさんがSNSでなりすまされた(写真提供/イメージマート)
《50代男性が告白「まさか自分が…」》なりすまし被害が一般人にも拡大 生成AIを活用した偽アカウントから投資や儲け話の勧誘…被害に遭わないためには?
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
渡邊渚さん(撮影/藤本和典)
「私にとっての2025年の漢字は『出』です」 渡邊渚さんが綴る「新しい年にチャレンジしたこと」
NEWSポストセブン
ラオスを訪問された愛子さま(写真/共同通信社)
《「水光肌メイク」に絶賛の声》愛子さま「内側から発光しているようなツヤ感」の美肌の秘密 美容関係者は「清潔感・品格・フレッシュさの三拍子がそろった理想の皇族メイク」と分析
NEWSポストセブン
国宝級イケメンとして女性ファンが多い八木(本人のInstagramより)
「国宝級イケメン」FANTASTICS・八木勇征(28)が“韓国系カリスマギャル”と破局していた 原因となった“価値感の違い”
NEWSポストセブン
実力もファンサービスも超一流
【密着グラフ】新大関・安青錦、冬巡業ではファンサービスも超一流「今は自分がやるべきことをしっかり集中してやりたい」史上最速横綱の偉業に向けて勝負の1年
週刊ポスト
今回公開された資料には若い女性と見られる人物がクリントン氏の肩に手を回している写真などが含まれていた
「君は年を取りすぎている」「マッサージの仕事名目で…」当時16歳の性的虐待の被害者女性が訴え “エプスタインファイル”公開で見える人身売買事件のリアル
NEWSポストセブン
タレントでプロレスラーの上原わかな
「この体型ってプロレス的にはプラスなのかな?」ウエスト58センチ、太もも59センチの上原わかながムチムチボディを肯定できるようになった理由【2023年リングデビュー】
NEWSポストセブン
「戦後80年 戦争と子どもたち」を鑑賞された秋篠宮ご夫妻と佳子さま、悠仁さま(2025年12月26日、時事通信フォト)
《天皇ご一家との違いも》秋篠宮ご一家のモノトーンコーデ ストライプ柄ネクタイ&シルバー系アクセ、佳子さまは黒バッグで引き締め
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
《六代目山口組の抗争相手が沈黙を破る》神戸山口組、絆會、池田組が2026年も「強硬姿勢」 警察も警戒再強化へ
NEWSポストセブン