この方法によって横山さんに指示された仕事は、いわゆる「現金の運び屋」だった。携帯からGメールにアクセスし、都内某所で待ちわせた男性から現金の入った封筒を受け取り、埼玉県某市のターミナル駅にある指定のコインロッカーに入れた。
横山さんはもちろん「詐欺の片棒を担いでいる」という自覚はあったが、そこまで罪悪感を感じずに仕事をすることができた。携帯のメールボックスには何も残らないからバレようがないし、仮に逮捕されても「知らなかった」とシラを切れば、実刑になる可能性も低く、仮になったところで刑期もたかが知れている。Gメールでのやりとりで、相手からこのように説き伏せられていたのである。
報酬は「現金では足が付く」といわれ、iTuneカード1万円分のコードが送られてきたのみ。最後にGメールのアカウントの消去を命じられ、やりとりは終わったのだった。横山さんはこの一回限りで”仕事”はしなかったが、今でも後悔はしていない。
「バレる気もしなかったし、ただ運ぶだけ。報酬が意外に安かったし、もうやんないってだけです」(横山さん)
一方、つい最近までSNSを通じて「闇バイト」に応募したり、時には自らリクルーターもやっていたという神奈川県在住の山本ユウイチさん(仮名・20代)は、より現代的な方法で、詐欺グループメンバーと連絡を取り合っていると話す。
「“テレグラム”というメッセージを暗号化できるアプリでやりとりしていました。オレ(オレ詐欺)やってるやつならみんな使ってますね。ツイッター上で“高額バイト”とかいって人を集めたりしますが、そこで具体的な仕事についてやりとりをすることは絶対にない。だからツイッターでオレの募集をかけて警察に目つけられても、やりとりは全てテレグラムだから証拠がない。ツイッターで堂々と募集するアカウントが増えるのもこれが理由です」(ユウイチさん)
2013年からサービスが提供されているロシア製のインスタントメッセンジャー「テレグラム」は、音声や画像などあらゆるファイルを送信でき、大人数のグループチャットに対応、スマホアプリだけでなくPCからも使いやすいことから、仮想通貨コミュニティで人気に火がつき、ユーザーは2億人を超えると言われている。高度な暗号化技術は、利用者の自由と情報を守るために開発されたものだが、2015年に起きたパリ同時多発テロの際にイスラム国メンバーらが連絡手段として利用するなど、悪用するグループも出現しているのが現実だ。
このような手段が確立したからか、オレオレ詐欺の受け子や出し子たちはネット上で気軽に“仕事”という犯行を請け負うようになった。フリーランスがネット上で仕事を見つけ、自分でやり切れない業務量であれば知人に手伝ってもらい、やり終えたら報酬をもらうかのような、そんな様相だ。