「オレオレで儲けると、飲みに行くか、時計を買うか、車を買うかだ。次は店を持ちたくなる。水商売をやったり、飲食やアパレルや。そのうち何かに投資したり不動産を買ったり。不動産投資詐欺なんて、オレオレの味をしめたやつらがやっているのさ。リスト屋から名簿を買って、価値のないようなワンルームマンションを高値で売る」
詐欺のターゲットは、“詐欺にあった人リスト”で探すという。騙された人のリストは、1件につき50円程度。1件10円の安いリストもあるが内容が薄く、住所氏名などの基本的情報と金額程度の情報でしかない。リストが入ったCD-Rを1枚100万とか50万円で買うが、このリストには誰がどこで、どんな風に、いくら騙されたかという詳細な情報が載っているらしい。
「でもさ不動産というのは不思議なもんで、詐欺みたいな会社でも、やっているうちにまともな会社になってくるんだよ。資産を持つと、銀行でオーバーローンを組めるようになるし」
オーバーローンとは、住宅に必要な額以上を銀行に融資してもらうことをいう。
「まともといっても、“かぼちゃの馬車”みたいな会社だけどね」
ここでいう“かぼちゃの馬車”とは女性専用シェアハウスのブランドで、それを展開していたスマートデイズという会社がサブリース家賃の不払いで経営破たんしたのは記憶に新しい。
「ああいう会社はオレオレの特性を利用しているんだよ。ワンルームの投資マンションなんて、いかにもオレオレ的だよ。ここで利用するリストもリスト屋から買うんだ。上場企業を退職したばかりぐらいが一番のターゲットだね。『お子さんに残してあげられますよ』という口説き文句のマニュアルがある」
リストは次から次へと入手され、ターゲットに合わせた“販売マニュアル”まであるという。
「衣食住っていうだろう。衣食が足りても、人はまず住む所ありきだ。住む所がないと人間は落ち着かない。どんないい服、どんないい食べ物より、いい家に住んでいるのがステータスさ。今の時代、人間の価値観を高めるのは持ち家だ。詐欺みたいな不動産投資話はそこにつけ込むのさ」
グラスの中の氷がカランと音を立てる。
「不動産投資詐欺は真心をこめて人を騙すのが仕事さ」
幹部がニヤリと笑った。どこかで似たようなキャッチコピーを聞いたことがあるのを思い出した。