◆遅くとも50代に始める必要がある
現に、リタイアした高齢者たちが普段何をしているかといえば、犬と散歩したり、ベランダでランを栽培したり、銭湯代わりに近所のフィットネスクラブに通ったり、といった程度である。出かける場合も旅行以外では、さほどお金のかからないゴルフ、登山、釣りなどが中心だ。内閣府の調査によると、高齢者の4人に1人は親しい友人もいない。
だから、このままではあの世に行くまでに貯金を使い切れないと分かった高齢者たちで、ミシュランの3つ星レストランや高級温泉旅館、豪華客船クルーズ、2泊3日~5泊6日で1人100万円前後もするJR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」やJR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」、JR九州の「ななつ星in九州」などが賑わっているのだ。これを私は“やけっぱち消費”と呼んでいる。
また、私は企業の本部長クラスを対象にした「大前経営塾」という講座の中で、受講者の人たちに拙著『50代からの選択』を読んでもらった上で「老後にやりたいことはいくつありますか?」と質問しているが、二つ以上答えられた人はほとんどいない。そこで私は「人生というのは老後にやりたいことが20くらいはないとダメですよ」とアドバイスしている。
つまり「屋内でやること」「屋外でやること」「1人でやること」「友人とやること」という四つに分けたマトリクスを作り、それぞれの領域でやりたいことが五つずつくらいないと、充実した老後の人生をエンジョイできないと思うのだ。そして、それらの「やりたいこと」は現役時代に、遅くとも50代で始めなければならない。リタイアしてから始めようと思っても、体力が衰え、感性も鈍っているので、スポーツ系は危なくてしょうがないし、芸術系は上達しないからである。老後のライフプランについても、ファイナンシャルプランと同様に若いうちから立てておかねばならないのだ。
実際、私自身はこれまでにクラリネット演奏、音楽鑑賞、バイク、スキー、スノーモービル、水上スキー、スキューバダイビング、ゴルフ、テニスなど20以上の「やりたいこと」をやり、古希を過ぎた現在も楽しんでいる。