詐欺を成功させるためには、受け子や出し子などの末端要員まで、口が硬く、頭がキレるに越したことはない。そのため過去には、ドジを踏むような連中をメンバーにしないために、詐欺の前に面接や予行練習まで行われてきた。人材の選定や見極めを慎重に行うことで、詐欺グループのボスにあたる暴力団などの計画者にまで司直の手が伸びないようにしてきたというわけだ。
だが、先の暴力団関係者によれば、SNS上や街頭キャッチで出し子受け子をリクルートする、一見雑なやり方のほうが、末端要員がドジを踏もうと、それこそ逮捕されようが関係ない人の集め方だという。
「以前の出し子、受け子は最低でも五万円とか、それくらいは(報酬を)受け取っていたわけです。今では、以前は出し受け専門だった連中が、自分ではやりたくないから下に仕事をふる。最近の奴らはすごい。飛ばしの携帯や書き込んだ人間の情報が割れにくいダークウェブ、暗号化できるアプリなどを使っていとも簡単に、金に困った連中や考えの浅い若い奴を連れてくる。つまり以前より下請け、孫請け化、その先にまで伸びて、多くの人間が詐欺に加担するようになったんです。関わる全員が暴力団などの本職、もしくは半グレなら、捜査で繋がるかもしれない。ただ、その下を作ったことで詐欺の全体像がわかりづらくなっていることは間違いない。
末端の人間は素人で後先を考えないから、すぐ詐欺をやるし、すぐ捕まる。中には、中学生が友達を誘って受け出しをやったり、儲かるからと言って家族で犯行に手を染める奴もいた。でもパクられるのはここまで。その先、指揮系統の上位にいる連中が以前よりも追いづらく、繋がらなくなってきた。確かに末端の人材は劣化したが、これは詐欺の絵を描いているような連中からしてみれば、進化と解釈できなくもない。嬉しい誤算ではないでしょうか?」(暴力団関係者)
以前の詐欺グループでは、末端でも信用できる者を採用していたため、グループ組織の概要や自分の“上司”が誰なのかを、なんとなくでも把握していた。口が堅いはずだという信用はあるものの、情報を知っているということは、本人が意図しない形で漏れてしまうこともある。だが、現在の雑なやり方で集められた末端要員たちは、そもそも自分がどんな組織に加わって何をしているのかまったく把握できていない。知らないことは聞かれても答えようがないから、幹部たちに捜査が伸びる可能性は以前よりも小さくなったというのだ。
詐欺に加担する者たちは、ある意味で劣化しているが、逆に別の意味での進化を遂げてしまっていた。詐欺グループがこのような構造変化をして現在も活動を継続しているのは、特殊詐欺がなぜなくならいのかを深く論ずることなく、上辺だけを取り締まった結果ではないのかと思わずにいられない。アポ電強盗殺人事件のように、すでに、特殊詐欺事件で直接的に命を落とした人もいる。特殊詐欺の背景に何があるのか、今一度、国民一人一人が、胸に手を当て考える必要があるだろう。