いっとき「ビジネスエリートのパスポート」「キャリアアップの切り札」として脚光を浴びたMBA(経営学修士)だが、ここのところ往年の輝きを失っている。その理由は、苦労して“MBAホルダー”になっても、華々しい出世どころか企業内で冷遇される風潮があるからだという。同志社大学政策学部教授の太田肇氏が、その現状をレポートする。
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国内のビジネススクールでは入学者数が伸び悩み、定員割れを起こしているところも多い。優秀な人材をふるいにかけて入学させているビジネススクールは、ごく一握りに過ぎない。どうやらその原因は、わが国特有の企業社会にあるようだ。
ビジネス界を覗くと、わが国ではMBAが欧米のように根付いていない実態が一目瞭然にわかる。欧米では経営者や管理職の多くがMBAを取得しており、Ph.D (博士) の学位を持つ人も少なくないが、わが国では大企業の経営者、管理職でも博士号はおろか、MBAの資格を持つ人も少ない。
それでも若手ビジネスパーソンの間でMBA人気は底堅いものがあり、キャリア志向の強い人たちにとっては相変わらず憧れの的である。
ところが管理職や同僚など、彼らを取り巻く環境はMBAの取得をサポートしてくれるどころか、おしなべて冷たい。国内のビジネススクールに通う社会人学生たちの口からは、つぎのような嘆きの声が聞かれる。
「終業後か週末を利用してビジネススクールに通学するので、だれにも迷惑をかけていないのに、ときどき嫌みをいわれる」
「上司の態度が冷たくなり、厳しく管理されるようになった」
「同僚がよそよそしくなり、仲間に入れてくれなくなった」
なかには通学できない地域へ転勤させられたというケースまである。
学生自身、周囲の空気が冷たいことをわかっているので、彼らの多くはビジネススクールへの通学を会社には内緒にしている。そしてMBAを取得した後も、会社や同僚には知らせていないそうだ。