『70歳のたしなみ』の著者・坂東眞理子さん
人と話す時に過去にこだわっていたり、どうしてあの人だけ、と嫉妬したり、逆にどうせ私は、と自分をおとしめていては上機嫌でいられない。上機嫌とは、たしなみを持つ人だけが辿り着く至福なのだ。
とはいえ、ここに来るお客さんのすべてが最初から笑顔で訪れるわけではないという。
「多くのかたは、『変わりたい!』『きれいになっておしゃれを楽しみたい』と自ら予約して来られますが、中には、家にずっとこもりがちで、ご家族に連れられてようやく来られたかたもいらっしゃいます。
ところが、そういうかたでも、髪形を変え、サービスでメイクや爪を磨いて差し上げた後、最後に鏡を見られた時は、別人のように明るい表情に変わっているんです。皆さん、きれいになると笑顔になって、イキイキとしてきますし、そういうかたほど自然に他人のことを褒めたり立てたりして、スッと仲よくなられますよ」
中には、美しくなった自分を見て泣いて喜ぶ女性もいるという。改めてフロアを見渡すと、麗しい髪形に整えてもらったお客さんが、美容師とファッションやメイクの相談をしている。
長谷川さんによれば、白髪染めの際に黒く染めるのではなく、白髪交じりのグレイヘアだからこそできる、ブロンドや淡い紫、ピンクなどのカラーを楽しむことで、白いシャツなど明るい色の服を好み、メイクも変えたくなる人が多いという。
「それまでは、『若い人が着る色でしょ』と敬遠されていたのが、カラーを楽しむことで淡い色や白いシャツが似合いやすくなって、すごく楽しくなったというお声をよくいただきます」
《おしゃれの基本はまず自分の気持ちが高まること》と『70歳のたしなみ』にあるように、一歩踏み出して美容室に行けば、気持ちが高まり、おしゃれの幅が広がる。そして街に出かけたくなり、友達に会いたくなる。
何より、上機嫌になる。その結果、前述の長谷川さんの話のように、恋愛を楽しみ、習い事や趣味など行動範囲も広がっていくのだろう。
《もう歳だから今さら何をあがいてもむだよ、とあきらめたらおしまいである》と、坂東さんは説いているが、この美容室にいる幸せそうな女性たちを見て、納得した。
※女性セブン2019年5月30日号