クリームや軟膏を塗るためのスパチュラ(へら)は、手を汚さず使用できるだけでなく、衛生的でクリームの節約にもなる製品だ。akariの『クリームスパチュラ』は吸盤で自立するため、周囲を汚す心配もない。開発のきっかけとなったのは、子供に軟膏を塗っていた元看護師ママのひらめきだった。
『クリームスパチュラ』は、天板に吸盤を取り付けることで自立でき、倒れる心配がない画期的な商品だ。
開発したのは、元看護師で4児の母でもある、中尾麻里さん。病気で手術をした三男は、術後に抗生物質の投与が続き、お尻が荒れてしまっていた。そのお尻に軟膏を塗っていた中尾さんは、自分の手の雑菌とお尻の雑菌、そしてその雑菌が未使用の軟膏にまで広がってしまうのではないかと気になっていた。
人の手には常在菌を含む菌が無数にいる。本来、手で軟膏を塗る時は、塗る前後に手洗いを入念にすることが鉄則だ。衛生的に軟膏を塗布できる道具がないかと思い、既存品を探したが、ぴったりなものは見つからず、しばらくは調理用のシリコンのゴムベラを使っていた。そこで、自立式で手を汚さずに軟膏を塗れるスパチュラを開発できないかと思い立った。
中尾さんは看護師を引退後、子育ての傍ら、雑貨や子供服の輸入、おもちゃの開発を手がける事業家でもある。つきあいのあった通訳者を通じて調べたところ、スパチュラの試作品を作るためには、プラスチックの型を作るための3Dデータが必要なことがわかった。
さっそくクラウドソーシング(オンライン上での業務発注)で3Dデータを作成しているデザイナーを探したが、国内の工場でサンプルを作ると高額になってしまう。なんとか中国の工場向けのデザイナーを見つけ出し、試作品を作った。
ところが、吸盤の力が弱く、うまく貼り付かない。吸盤で自立させるには、バランスが難しく、試作を繰り返すことになった。度重なる試作に工場側から「もうこれで最後にしてほしい」と言われた4回目で自立するスパチュラが完成。ようやく生産体制に入る準備が整った。
サンプルが出来上がった次に必要なのは、量産に必要な金型を製作すること。金型の費用を捻出するためにクラウドファンディングを利用し、わずか2時間で資金の調達に成功した。
実は開発する際、社員からは「手で塗ればいいのでは?」「子供のお尻を汚いと思ってはいけない。母の手で直接軟膏を塗ることが愛情ではないか?」という声もあったという。
「子育てにおいては、どうしても母親の負担が大きくなるもの。もっと母親目線で、子育てを楽しくラクにできる道具があればいいのにと思う。子供とのふれあいは、お尻じゃなくてもできますから(笑い)」と語る中尾さん。実際、中尾さんのお子さんが軟膏を塗ってほしい時は、この『クリームスパチュラ』を持ってくるそう。
中尾さんは今後も、看護師としての目線を取り入れたエビデンスに基づいた便利な商品を作っていきたいと、目を輝かせながら語ってくれた。
※女性セブン2019年6月6日号