たぶん、そうはならない。経営者側はあいかわらずルールを破り、労働者はあいかわらず沈黙する。そんな現状を変えようと奮闘している人がたくさんいることも承知しているが、やっぱりすぐには変えられないだろう。

「ドイツの労働環境がいい」というのは、ドイツという国に神が気まぐれで与えたものではなく、法律を整備してそれを破る者を罰し、個々の労働者が理不尽に対して声を上げ続けた結果だ。

「働きやすさ」を勝ち取るために自覚的に戦う人たちの多さもまた、ドイツの労働環境をつくっている。

 ドイツの労働環境について、「いいなぁ」と言う日本人は多い(実際よく言われる)。じゃああなたは、有給休暇支給日数を知っている? 毎月の残業時間や残業時間の取り決めを確認している? 労働時間の上限を把握している? 労働契約書をちゃんと読んだ?

 そう聞くと、多くの人は答えられないんじゃないだろうか。

 それ自体が悪いというわけではない。人情を大事にする日本がドイツに劣っているとも思わない。

 ただ、ルールに無頓着で権利行使のために戦うつもりがないのに、無邪気に「ドイツって進んでる!」と言うのは、ちょっとちがう気がするのだ。

残業規制は別の問題を生んでいる(写真/アフロ)

◆労働者は「ルール違反」を許さない

 人口減少にともなう労働力不足、それを見越した効率化、ワークライフバランスを重視した働き方改革。そういった動きがさかんな現在、日本では日々いろいろな「ルール」についての議論がかわされている。今年4月から導入された有給休暇取得義務についてもそうだ。

 しかし「企業がルールを守る」という前提がないかぎり、「どういうルールにするか」を考えたところで、効果は限定的だ。

 平気でおかしなことを要求する人たちと、その理不尽を受け入れてしまう人たち。そういった人々が集まる組織にいくら画期的な法律を導入したところで、状況はたいして変わりはしない。

 他国の制度や働き方から学べることはある。「どういうルールにしたら多くの人が働きやすくなるか」という議論は、もちろん続けていくべきだ。

 でも、それよりもまず、「ルールを守らせる」ことを徹底すべきじゃないだろうか。

 もっと率直に言えば、「法律を守らせる労働者」が必要なのだ。「それはおかしい」「まちがってる」ともっと怒って、ルール違反を許さないことがなによりも大事だと思う。もちろん、抗議による不利益が起こらないような配慮や、声をあげやすくするための援護射撃も必須だ。

 ルールをつくったこと、つくってもらったことに満足しないで、それが正しく適応されているのかをチェックし、理不尽に対する抗議を一般化していく。そうすることではじめてルールが機能し、状況が改善されていくのではないだろうか。

日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち (新潮新書)

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