神奈川県内の物流コンサル会社勤務の大橋学さん(仮名・40代)も、痴漢や不審者に間違われた経験から、すっかり生きる気力をなくしてしまった一人。
「二十代で頭頂部が薄くなりはじめ、内臓の病気で肌色も悪く、目つきも悪いんです。この前は、営業先の会社のエントランスで30分座って待っていたところ、警備員が五~六人やってきて、身分証明書を見せろ、ここにいる理由を言えと詰め寄られました」(大橋さん)
何度も通った会社であったが、新入りの受付嬢が初見の大橋さんを不審に思い、警備員に通報していたのだという。同じように、公園で休憩をしたり、弁当を食べているだけで、警察官に職務質問を受けたり不審者扱いを受けた。中でも辛かったのは、愛娘の学校行事に参加したときのこと。
「娘の学校行事に参加するために、教室の入り口に立って別の親御さんに挨拶をしていたんです。そしたら、娘のクラスメイトが私の顔を見て泣き出しました。その親御さんが飛んできて、何をやったの、痴漢?変質者? と大騒ぎ。私を知らない別のクラスの屈強な体つきの担任が、私の首元を掴んできて…。事情を説明して担任も親御さんも謝罪してくれましたが、もう学校には行けません。娘も辛い思いをしているんじゃないかと思うと悲しくて」(大橋さん)
娘と外出するときは、帽子とサングラスが手放せなくなったという大橋さんだが、美容整形や植毛を本気で考えているのだというから笑えない。
「どんなに頑張って仕事しても、どんなに子供たちに優しく接しても、結局見た目で判断されるわけです。痴漢や変質者に間違われるのって、みなさんが思っている以上にきついんです。もちろん、痴漢や変質者が多いことがいけないのですが、そのせいで、なんら関係のない、特に私たちのように見た目がよくない人々はものすごく辛い思いをしています。人権侵害そのものですが…まあ声を上げたところで、気持ち悪い、の一言で相手にされないんでしょうし」(大橋さん)
かつては「人を見た目で判断してはいけない」と教えられたものだ。ところが最近は「人を見た目で判断してよい」という意見が強くなっている。それは「見た目で判断してはいけない」という大前提があるからこそ有効なアンチテーゼであって、基本的な考え方にしてはいけないものではないのか。どうしても割を食いがちな中年男性たちに、もう少し優しい世の中になってほしいものだ。