試合直後の疲弊状態で参加する選手たちは、辛くはないのだろうか。日本代表として33試合に出場し、2007年W杯のカナダ戦では日本の連敗を止める劇的な同点ゴールを決めたこともある大西将太郎さんは、アフターマッチファンクションの思い出をこう語る。
「アフターマッチファンクションでは、試合の感想を述べたり、“あのタックル、やられたよ”なんて話をしています。2006年の春に行われたトンガとのテストマッチ(国際親善試合)のアフターマッチファンクションは特に思い出深いですね。“お前は風貌がトンガ人みたいだから”といわれて、一緒に彼らの歌と踊りに参加したんです。お返しに、僕たちも彼らの知っているスキヤキソング(「上を向いて歩こう」)を歌ったりしました。試合の前に相手国のことを調べて、ネタを仕込んでいくんですよ」
そこで知り合った相手選手と連絡先を交換し合い、友達になることもよくある。
「アフターマッチファンクションがあることで、世界中のラガーマンと友達になれた。今でもさまざまな国の選手や、引退してコーチになっている元選手たちから情報収集したり、近況を連絡し合ったりしていますよ」(大西さん)
アフターマッチファンクションが平和裏に行われる背景には、やはりラグビーの「ノーサイドの精神」があるだろう。試合が終われば、互いに勝利を目指してしのぎを削り合った者同士だからこそ分かり合える境地で、肩を組んで盃を酌み交わす──そんな相手へのリスペクトこそ、ノーサイドの神髄ではないだろうか。
ラグビーが相手へのリスペクトをことさら強調するのは、体を激しくぶつけ合う競技だからこそ。常に相手を尊重することを言い続けてこそ、ラグビーはボールゲームの体裁をなしていられる。それがなければ、試合中すぐに乱闘になってしまうだろう。
アフターマッチファンクションは大人だけでなく、ジュニアの試合でも行われる。乾杯は、もちろんソフトドリンクだ。敗れてどんなに悔しくても笑顔で握手することで、子どもたちは一段とたくましく、大人へと成長していく。
アフターマッチファンクションは、相手を尊重するノーサイドの精神を涵養する機能を備えたものでもあるのだ。
●取材・文/岸川貴文(フリーライター)