五本木愛さんと娘のうららちゃん
「事務所の2階と隣の美容室がちょうど空いて。美容室は居抜きで使えば初期投資も少ないし、美容室をやればその売り上げで託児所の家賃を捻出し、事務所と美容室をつなげば託児所のスペースも広くなる。じゃあ美容室もやっちゃおう!と。実は、妹が美容師なんです(笑い)」
託児所と美容室。唐突な感じもするが、美容室に障害児を連れて行くのはハードルが高い。「美容室だって障害児やママには福祉サービスの1つ」と、五本木さんは言う。
「福祉が外に広がらないのは、福祉の中で福祉をやろうとしているから。補助金の範囲では、当事者が本当に必要なサービスは提供しにくい」
◆最終ゴールは“自立した仕事と暮らし”
学童、美容室、託児所を立ち上げた五本木さんだが、まだ先がある。1年後にはインクルーシブ学童の中高生版を始める予定だという。
「私には娘が大人になるまでのタイムリミットがあります。先々必要になってくる居場所を前倒しで用意しなければなりません。今、小学3年生ですから3年後には中学生。中学生になれば居場所はさらに狭まります。
勉強の差は明らかになる。塾も行けない、部活もできない、親にはどうにもできない。放っておけば不登校やひきこもりになり、自分の部屋から出られなくなる。社会と断絶せざるを得ない状況も充分あり得ます」
そう考えると、中高生の居場所を作るだけではなく、その先々にちゃんとつながる仕組みがなければ意味がない。
「例えば、中高生の学習支援などでパソコンのスキルを身につけて、既に稼働しているテレワークの仕事をする。スキルが上がれば企業で働くことも可能になります」
五本木さんの最終着地点は、障害のある子が自立して“働きながら”“住む”ことができる社会だ。
「最終的に娘が働くところや住む場所は作っておかないと…という強い思いが常にありました。そこに到達するために必要な場所を一つひとつ作っていこうと。遠回りはしないと決めていたので、娘が小学校に上がるから学童、本当に欲しかった託児所、小学校を卒業するタイミングに合わせた中高生の学童…。娘にも、25才くらいになれば仕事をして、ひとり立ちしてほしい。どの親も望むことです。私も同じ。そのためにも全国にインクルーシブの施設が増えることを願います。人としての尊厳、そして自由は、障害に左右されない社会にこそあると信じています」
撮影/高橋進
※女性セブン2019年8月22・29日号