熱望していた山中伸弥教授に話を聞く機会がついに実現
山中先生:僕らの研究にも、どんどんAIの技術は入り込んでいます。医療現場で、特に使われているのはAIによる画像診断です。レントゲンの骨折や肺の腫瘍、皮膚科の皮膚病の有無など、目で確認する診断は画像診断をした方が早いし、人間が見るよりも見落とし率が低いんですね。AIをうまく使えばずいぶん人間にとってはプラスになるし、AIに任せることで時間も節約できる。その分の時間をもっと創造的な仕事に使えるようになるかもしれないんですね。
ただ、AIがどこかで暴走しないとも限らないし、十年後になったら、人間の仕事がAIに取られている可能性もある。正直、まだ僕にも想像がつかないんです。いまの20代くらいの優秀な理系の若者は、僕たちのような生物学の分野よりも、AIや自動運転などの分野の研究に進む傾向があるせいか、急速にAIの技術革新は進んでいるんです。でも、それで十年後にどういう社会になるのかが、楽しみでもあり、心配でもあります。AIや機械を人間が使っているつもりで、実は人間が使われているんじゃないかと。
いまだ世界を見渡してもCEOや社長が人間ではない会社は見たことがないんですが、そのうち、AIがトップを務める会社というのも出てくるんじゃないかな……と思ってます。
愛菜:何だか、怖いようですね。
山中先生:「そんなバカな!」と思うでしょうが、意外と実現する可能性はあるんじゃないかと思っています。なぜならAIは疲れないし、私情も挟まないから客観的な判断ができる。休まないので、情報は24時間取り入れることもできます。そうすると、会社の経営方針なども人間が決めるよりも、AIが決めたほうがいい時代が来るかもしれません。
また、企業の経営者だけではなく、僕たち研究者も同様です。いずれAIがいろんなデータをはじいて、判断できるようになれば、研究者もいらなくなるかもしれません。だから、AIが活躍する未来は楽しみではあるけれども、逆に心配な部分もあります。
愛菜:私もAIは世の中に大切なものだと思います。でも、研究者やお医者さんは、AIよりも人間の方にやってほしいなと思います。そのほうが、人間味があるし、頼り甲斐がある気がしますし。
山中先生:僕もそう思います。でも、十年後の人々の価値観がどうなっているのかは、いまはやはり想像がつかないんですよ。たとえば、AIにとってかわられない仕事の例として、「ヘアデザイナーさん」という職業があります。今の時代は、髪の毛のカットをAIにやられたら嫌だと思う人が多いと思うんですが、でも、もしもすごい腕のAIが出てきたら、そっちの方がよいと思う人は出てくるんじゃないでしょうか。