利幅は僅少でも高級車の造りを取り入れているN-BOX
全高170~180cmクラスの背高軽自動車、いわゆるスーパーハイトワゴンというカテゴリーは2003年に登場したタントの第1世代モデルが開拓したものだが、今日、このカテゴリートップに君臨しているのはタントではない。言わずと知れたホンダ「N-BOX」である。今年の上半期は月平均で2万2000台近くを売り上げ、普通車を含めたトータル順位で圧倒的ナンバーワンという怪物モデルだ。
N-BOXがここまで絶好調好調だったのには明確な理由がある。乗り心地、静粛性、ハンドリングといったクルマの基本性能が軽スーパーハイトワゴンの中で飛びぬけて高かったからだ。
特に2017年にデビューした現行モデルは、ボディの組み立てに精度と強度の両面で優れる接着剤工法を用いるなど、高級車のような作りを取り入れている。もちろんそんな作り方をすればコストは高くなる。平均売価はライバルの中で最も高いが、「それでも利幅は僅少」(ホンダ事情通)だ。
それをあえてN-BOXでやったのは、「ホンダ全体のクルマ作りのレベルを上げるための実験という意味合いが大きかった。N-BOXで得られた知見を他のモデルにも活用するのが狙い」(同)なのだという。価格は高いが、乗り比べればごく普通のユーザーにも違いがすぐにわかるという商品力の高さを武器に、ここまで優位に戦ってきた。
だが、そんなN-BOXの優位もいつまでも続くという保証はない。すでにライバルの追い上げの兆候は見えはじめていた。その最たる例はスズキだ。
スズキはスーパーハイトワゴンの商品力が弱く、ホンダ、ダイハツに販売実績で大差をつけられていたのだが、2017年末、N-BOXに少し後れて登場した現行「スペーシア」は全車マイルドハイブリッドというエコ性能と家電的ともいえるポップなスタイリングで一転人気モデルに。N-BOXの6割くらいの販売台数をコンスタントに記録している。
エコ性能に優れたスズキ「スペーシア」
また、前出の第4世代タントは、スペーシアに続く“第二の刺客”と言うべきモデル。さらに遠からず、日産三菱連合が「デイズルークス」「eKスペース」をフルモデルチェンジしてくる見通しである。
迎え撃つ側であるホンダの首都圏ディーラー幹部は、こう警戒心を露にする。
「N-BOXより価格の安いライバルの商品力が増していることのプレッシャーは小さくない。加えて今後はホンダの1クラス下の『N-WGN』にお客様が流れる可能性もある。販売台数が減って競合モデルとの差が縮まれば、売れているクルマだから自分も……というお客様に対する引きが弱くなる恐れがあります。もちろんN-BOXの販売で手を緩めるつもりはありませんが」