軽自動車で競争が激化しているのは、スーパーハイトワゴンだけではない。1990年代にスズキが「ワゴンR」で開拓したトールワゴン分野もしかりだ。
今年3月、日産三菱連合が新型「デイズ」「eKワゴン/eKクロス」を発売した。今年5月に当サイトの記事でもお伝えしたが、日産のスーパースポーツ「GT-R」などのチューニングを手がけたエース級の人材を開発陣に充てるなどして作られた、本気モードのモデルだ。
それに対してホンダは7月、前出のN-WGNを発表、8月に発売する。渋滞時の追従機能を持つ先進安全システム「ホンダセンシング」の最新版を装備しつつ、価格は抑制的。これまでのホンダ車とは異なり、無駄な装飾を排したミニマルスタイルで攻めているのが特徴だ。
ここに近い将来、カテゴリーのパイオニアであるスズキ・ワゴンR、及びそのフォロワーであったダイハツ「ムーヴ」の2モデルの新型が加わる。スーパーハイトワゴンに次ぐ売れ筋カテゴリーだけに、激しいバトルは必至であろう。
気になるのは、乗用車市場における軽のシェアの行方だ。現時点での35%超という数字もかなり高いが、各社が気合の入ったモデルを投入し、マーケットが盛り上がると、今後さらに上昇する可能性が高い。
「以前、軽の比率が40%に届いたことがありましたが、本音を言うとそこまで伸びてほしくない。あまり増えすぎると、軽自動車に対する圧力が再燃しかねないからです。だからといって、競争で手を抜いたら自分が負けるだけなので、常に本気を出さなければならない。普通車の販売が伸びてくれれば心配しなくてすむのですが……」
スズキ幹部はこのような懸念を示す。
ここまで述べたように、軽自動車の商品力がこれほどまでに上がったのは、強力なモデルが登場し、ライバルがそれに対して真っ向勝負を挑むという、非常に良い競争が行われているためだ。加えて、軽自動車はグローバルモデルが多数派となった普通車と異なり、ほとんどのモデルが日本の庶民の暮らしに役立つことを最大のターゲットとして作られている。これで税金をはじめとする維持費が安いというのだから、増えないほうがおかしい。
しかし、軽自動車が増えすぎるとその維持費に対する横槍が再び出てくる可能性は小さくない。仮に軽自動車の税金を上げたところで、普通車の売れ行きが良くなるわけではないのだが、自動車を一大税源としている地方公共団体は手っ取り早い税収確保のほうを重要視しており、経済についてはお構いなしだ。“軽ウォーズ”によるせっかくの市場活性化が増税の火種にならなければいいのだが。
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