【見出し】『神主と村の民俗誌』/神崎宣武・著/講談社学術文庫/1070円+税
【評者】池内紀(ドイツ文学者・エッセイスト)
著者は宮本常一門下の民俗学者であるとともに、岡山の古い神社の宮司である。現当主で二十八代。秋から旧正月にむけては東京と岡山をのべつ往復する。
神主が世襲制をとっているのは意味があるだろう。祭主として祭礼をとり行うのを、すべて経験で学びとる。準備の一つの紙の切り方、むらのしきたり、当番とのかね合い、神楽太鼓の打ち方、幼いころから目と耳で親しんでいなければならない。
神主の立場で座っていても、たえず世俗的な話を聞いておく、そんななかで気がついた。「祭りの盛衰も経済(かね)しだいとまではいわないが、祭りは世相を反映する。伝統という言葉だけではかたづけられないものがあるようなのだ」
その語り方からもわかるように、これは神崎宣武宮司の若いときの記録である。禰宜(ねぎ)として父の補助役をしていた。まだ余裕があり、燃えるような好奇心があり、氏子とのつき合いも若々しい。(だから本書が一九九一年に出たときは『いなか神主奮戦記―「むら」と「祭り」のフォークロア』のタイトルだった)