◆「目を見るだけで分かる」
もちろん、作品そのものの素晴らしさも京アニが多くの人から支持される理由だ。
映画ライターの杉本穂高さんは、京アニ作品の最大の特徴は「細部へのこだわり」であると指摘する。
「例えば、京アニ作品のキャラクターの“目”はどこのスタジオよりも細部まで描き込まれています。瞳の奥にあたる光の揺れまで再現する。“目”を見れば京アニの作品だとわかるほど、その繊細さは際立っています。
色彩のクオリティーも業界屈指で、『聲の形』では、時間の経過とともに主人公のシャツの色がくすんでいきます。キャラクターデザインも秀逸で、足が細すぎず、日本人らしいO脚を細部まで描く。背景の美しさも実に緻密です」
そうした特徴がよく表れているのが、2018年公開の映画『リズと青い鳥』である。テレビアニメ『響け!ユーフォニアム』のスピンオフ作品で、吹奏楽部に所属する女子高生2人の青春の葛藤を描く。
今回の事件で犠牲になった西屋太志さん(37才)がキャラクターデザインを、石田奈央美さん(49才)が色彩設計を担当した名作だ。
「各キャラクターは髪の毛1本1本まで丁寧に描き込まれていて、見たことがないような淡いブルーで映画全体のトーンが統一されていました。わずかに動く唇の震えや瞬きの速度、揺れるポニーテールにまで感情が宿っていて、豊かな生命感にあふれています。亡くなった西屋さんと石田さんをはじめ、制作陣が見事というよりありません」(杉本さん)
実際、この映画のDVD特典のインタビューで西屋さんは、《目を閉じて開くというまばたきじゃなく、目を閉じないまばたき》にこだわったと語った。また石田さんは、《音楽室の壁の白いところに青みのグラデーションを入れて、フルートやオーボエの銀の部分にも青を入れた》と細部へのこだわりを明かした。
※女性セブン2019年9月12日号