ネットには全く興味ないという山田さん
山田:私は東京出身ですが、父親が転勤族だったので地方をいろいろ回っていて。北関東には土地勘があったので、リアリティーを出せるんじゃないかなと思ったのが理由です。あのエリアの因習にとらわれている感じがすごくわかるので。
中川:因習にとらわれている感じ?
山田:ひどい人生から脱け出したくても、地域や周りがそれをさせてくれない感じ、といえば伝わるかな。ヤンキーのコミュニティーですよね。沖縄もそうかもしれない。
中川:山田さん、以前に対談で「女は男でつまずく」っておっしゃっていましたよね。そういうこととも繋がりますか?
山田:選択肢が奪われた家庭で育つと、人は間違った手を掴んでしまいやすくなると思うんです。女性の場合は特に、それが恋愛という形で表れやすい。本当の救いの手じゃなくて、くだらない男の手を掴んだことで人生が悪く変わる。そういうことって実際多いでしょう。
中川:僕が印象的だったのは、下村被告をモデルにした主人公の母親。母親は娘よりずっとふしだらなんですよ。でも彼女はわが子を殺さずに済んだ。なぜなら逃げたから。主人公は逃げられなかったから、殺してしまった。母娘のその差に山田さんはどう向き合ったんですか。
山田:母親の方は、言ってしまえば事情があって図らずも逃げることができたんです。でもそのこと自体が、娘には「私は逃げちゃいけない」という呪縛になってしまった。そうやって頑張らなきゃと追い詰められた結果、彼女は子供を餓死させてしまった。その人生の皮肉も含めて、フィクションだからこそ書けることがあると思って書きました。
【プロフィール】
◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。
◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。
◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。
撮影/政川慎治
※女性セブン2019年9月12日号