山田詠美一覧

【山田詠美】に関するニュースを集めたページです。

『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』著・山田詠美
【書評】芥川賞最古参選考委員・山田詠美さんは「言葉尻番長」だった!
【書評】『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』/山田詠美・著/小学館/1485円【評者】嵐山光三郎(作家) 新型コロナ・ウイルスの感染が拡大するなか、東京吉祥寺で暮らす山田詠美さんは、片面パリパリ焦がし焼きそばを食べつつ「許さん!」と怒っておるぞ。人呼んで言葉尻番長である。「嫌いな言葉」ってあるんですよね。それが新聞やテレビキャスター、政治家の口から出てくると、本能的に反感を持ってしまう。私は「ほっこり」ってのが嫌いでね。 詠美さんは「言葉をさぼるメディア」(権力を持つ側の傲岸不遜の発言)や「短絡的な分類」(若者=清く正しい、大人=汚れていてずるい)が嫌い。だって十八歳の詠美さんは学校さぼって遊び呆けていた。あ、それは嵐山も同じだ。「萌えキャラ」「女の質の向上」「エッチ」「ウグイス嬢」。緊急経済対策の「お肉券」や「お魚券」。東京都知事のお墨付を得た「おうちにいましょう」。分別ある大人が「おうち」、やだね。 芥川賞選考委員のなかで詠美さんは一番古い人になった。十八年前に新選考委員になったときは三島由紀夫につぐ最年少と言われたが、あっという間の十八年。 芥川賞直木賞の正賞である時計には受賞者名が「くん付け」で彫られているという。一九八七年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞した詠美さんの時計にも、山田詠美君と彫ってあった。河野多惠子さんは、電話中に石原慎太郎氏を「石原くん」と呼んでいたという。お、いいなあ。詠美さんが中・高あたりから男女ともに名字を呼び捨てしあうようになった。私が会社に入ったころは、年上は男女ともにさん付けであった。 最初に読んだ詠美さんの小説は『ひざまずいて足をお舐め』(一九八八年)。詠美さんが前の夫とニューヨークに里帰りしたとき、夫の幼馴染みの男たちは「日本の女はいいなあ。跪いて靴下を履かせてくれるっていうじゃん! 彼女の友達を紹介してくれ!」と頼んだ。前夫は気まずそうに私の顔を見て、受話器に向かって「いや、彼女、跪かせるほうだから…」と言ったんだって。※週刊ポスト2022年4月22日号
2022.04.17 19:00
週刊ポスト
【書評】武田砂鉄氏、山田詠美氏エッセイ集の「番長」視点にうっとりする
【書評】武田砂鉄氏、山田詠美氏エッセイ集の「番長」視点にうっとりする
【書評】『吉祥寺ドリーミン てくてく散歩・おずおずコロナ』/山田詠美/小学館/1485円【評者】武田砂鉄(ライター)「人間は愚かで、それ故にいとおしいという意見もありますが、愚かさにも許せるものとそうでないものがあるのです」との一文を読んで、そうだそうだそうだそうだと4回ほど連呼した私。昨今、コンプライアンスだとか多様性だとか、確かに大切にしなければいけない言葉を自己保身のために転用する人が増えてきた。失敗を許さない社会ってギスギスしてますよね、みたいなことを、何かを隠蔽したり誰かを傷つけたりしている人や周辺が使い始める。それはダメだろ、と思う。「愚かさにも許せるものとそうでないもの」があるのだ。新聞をめくり、テレビを眺めていると、許せない愚かさが並んでいる。「言葉尻番長」を自認する作家による週刊誌での連載コラムを、おおよそ雑誌掲載時に読んできたのだが、こうして一冊にまとまると、「番長」の視点のきめ細やかさと大胆さにうっとりする。「『責任を痛感している』と言い続けて責任を取らないままだった前政権や、『総合的・俯瞰的観点』と連呼しながら、その説明をしようとしない新政権の場当たり的な言葉の扱いにはうんざりです。その内、自分の言葉に復讐されるよ」 2020年11月に書かれたこちらのコラム、案の定、「前政権」は「前々政権」に、「新政権」は「前政権」になった。「自分の言葉に復讐」された……はずなのに、どうにもその自覚が薄いようで、辞めた後、「キングメーカー」と呼ばれながら上機嫌の人までいる。そう、復讐されても、全てを人のせいにしてしまえる人たちが、言葉をさらに軽んじているのだ。「私はAだと思います!」と言った人に、後になって「あの時、Aだと言ってましたよね?」と聞き返しても、「Aだと言ったのは私ではなく秘書です」だとか、「あたかも私がAだと言ったかのように伝えるのは印象操作ではないでしょうか」と開き直っている。 番長曰く、「スクラップ&ビルドならぬ、スクラップ&放置」と化してしまったオリンピックは結果的に強行され、毎年、清水寺で発表される今年の漢字、2021年は、日本勢がたくさんの金メダルをとったことを祝して「金」だった。でも、日々、生きていると、「金」の読み方は「日本勢のキン」ではなく「政治とカネ」のほうがしっくりくる。番長は、買収事件で逮捕された河井案里議員が選挙カーから流していた「名前は、かわいいあんりです」との言葉から、その狙いを嗅ぎ取る。なるほど、そういうことだったのか。 あちこちで連呼される「〜させていただく」という気持ちの悪い表現。以前、「番長」とご一緒した時に気持ち悪さを吐き出し合ったのだが、その後も収集を続けております。最新の事例は、テレビの旅番組で、ある旅館の支配人が、旅館の敷地内にある巨石に対して言った「パワーストーンにさせていただいている」です。次回、「番長」に会う機会のために、まだまだ収集する所存。【プロフィール】武田砂鉄/ライター。1982年生まれ。2015年『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。ほかに、『わかりやすさの罪』『偉い人ほどすぐ逃げる』『マチズモを削り取れ』など著書多数。責任編集を務めた『TBSラジオ公式読本』が2021年12月に発売。※女性セブン2022年1月20・27日号
2022.01.06 16:00
女性セブン
山田詠美、桐野夏生、桜木紫乃、角野栄子の「今年の3冊」
山田詠美、桐野夏生、桜木紫乃、角野栄子の「今年の3冊」
 家にいる時間も長かった2020年。あの人はどんな本を読んだのか? 読書家の著名人4人に「私が選ぶ3冊」を選んでもらった。●山田詠美さん(小説家)『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』ミシェル・クオ 訳・神田由布子(白水社) 冒頭の数行で、一生の内に出会うべき本の内の一冊であるのが解った。台湾系アメリカ人の若い女性が黒人文学に導かれて、貧困と人種差別の土地に赴く。人間が言葉を使って目の前の他者にしてやれる最大限の心づかいを描いたもう一つのBLM。『精神科医・安克昌さんが遺したもの 大震災、心の傷、家族との最後の日々』河村直哉(作品社)『おべんとうの時間がきらいだった』阿部直美(岩波書店)●桐野夏生さん(小説家)『贖罪 ナチス副総統ルドルフ・ヘスの戦争』吉田喜重(文藝春秋) 映画監督である吉田喜重さんが、87歳にして初めて書いた小説。それは、「わたし」の少年時代の思い出から始まる。その記憶が、やがてルドルフ・ヘスと思しき男の「手記」に繋がってゆく。小説ってこんなこともできるんだ、と驚愕する一冊。『私たちはどんな世界を生きているか』西谷修(講談社現代新書)『日本蒙昧前史』磯崎憲一郎(文藝春秋)●角野栄子さん(作家)『心は孤独な狩人』カーソン・マッカラーズ 訳・村上春樹(新潮社) 作家、23歳の時の作品。孤独な心はここではないどこかを求め彷徨う。でも、ハッピーエンドは来ない。そんな人々を、実に繊細な感性で、作家は書きあげていく。読後は暖かい。22歳の時に作品と出会い、今年、村上さんの名訳で再会した。長生きしてよかった!『緑の髪のパオリーノ』ジャンニ・ロダーリ 訳・内田洋子(講談社文庫)『神さまの貨物』ジャン=クロード・グランベール 訳・河野万里子(ポプラ社)●桜木紫乃さん(小説家)『わたしもかわいく生まれたかったな』川村エミコ(集英社) 著者はお笑いコンビ「たんぽぽ」のボケ担当。幼い頃からの思い出を綴る文章には不思議な吸引力があって、何気なく挟み込まれた一行に、つい引きずり込まれてしまう。つらい記憶を分析するのは胸の裡の美しい天秤だったり、ふるいだったり。切ない。『看る力 アガワ流介護入門』阿川佐和子、大塚宣夫(文春新書)『ベスト・エッセイ 2020』編・日本文藝家協会 編纂委員・角田光代、林真理子ほか(光村図書出版)※女性セブン2021年1月7・14日号
2020.12.23 16:00
女性セブン
山田詠美さん他、絵本作家やライターが選ぶ3冊
山田詠美、ブレイディみかこらが選ぶ2019年の3冊
 2019年には、どんな本と出会いましたか? 各界のスペシャリストが心を鷲掴みにされた2019年の3冊を紹介します。◆山田詠美さん(作家)が選ぶ2019年の3冊『不便益のススメ 新しいデザインを求めて』川上浩司(岩波ジュニア新書) 京都大学の工学部で学び、情報工学などの分野で研究を重ねる著者が解りやすく教えてくれる「不便益」とは、不便だからこそ得られる益のこと。世に流布する便利な事柄を疑うことは楽しく豊かで、驚くほど文学の方法論に似ている。目から鱗の一冊。『神戸・続神戸』西東三鬼(新潮文庫)『ケーキの切れない非行少年たち』宮口幸治(新潮新書)◆工藤ノリコさん(絵本作家、漫画家)が選ぶ2019年の3冊『蜜蜂と遠雷』(上下巻)恩田陸(幻冬舎文庫) 読書好きの弟から、だいぶ前から勧められていたのがなかなか読めずにいたところ、2019秋に公開になった映画を観て感動し、一気に読みました。楽しく読めるうえに、自分の絵本づくりにも共通する大事な考え方が描いてあり、心から共感しました。『空海の風景』(上下巻)司馬遼太郎(中公文庫)『深夜特急1 香港・マカオ』沢木耕太郎(新潮文庫)◆トミヤマユキコさん(ライター、マンガ研究者)が選ぶ2019年の3冊『サブリナ』ニック・ドルナソ 訳・藤井光(早川書房) 世界の読書家が注目するブッカー賞にグラフィックノベル初のノミネートを果たした作品。とある女性の失踪を通して描かれる現代のSNS社会が超不気味だけど、身に覚えがありすぎる(泣)。極限まで単純化された描線とコマ割は、全く新しい漫画体験を私達にもたらしてくれます!『夢中さ、きみに。』和山やま(KADOKAWA)『水は海に向かって流れる』田島列島(講談社)◆ブレイディみかこさん(保育士、ライター、コラムニスト)が選ぶ2019年の3冊『ザ・ロイヤルファミリー』早見和真(新潮社) ふだん小説は読まないのだが、例外的に面白くて一気読み。馬主の話だが、競馬を知らなくても楽しめる。リーダビリティってこういうことなんだなと唸った。終わり方がうますぎて、これはずるいと思います。『原子力時代における哲学』國分功一郎(晶文社)『迷うことについて』レベッカ・ソルニット 訳・東辻賢治郎(左右社)◆渡辺ペコさん(漫画家)が選ぶ2019年の3冊『愛と呪い』(全3巻)ふみふみこ(新潮社) 幼少から家庭で性的虐待を受けた少女が、その地獄をどうサバイブし自分を取り戻したのかを、誠実に全身全霊で描いた半自伝的漫画。ルポとして切実だが何より物語としても完成度が素晴らしく、著者の覚悟と技量に圧倒された。『韓国フェミニズムと私たち』タバブックス編(タバブックス)『たやすみなさい』岡野大嗣(書肆侃侃房)◆朝倉かすみさん(小説家)が選ぶ2019年の3冊『掃除婦のための手引書―ルシア・ベルリン作品集』『掃除婦のための手引書』を読み終えて浮かんだのは、ヘレン・ケラーが井戸の吹き出し口から流れる冷たいものを手に受け、それが「水」と気づいた場面。読んでいるあいだずっと流れ込んでくる、この作家しか持ちえない強烈な「声」にやられた。『黄金列車』佐藤亜紀(KADOKAWA)『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ(新潮社)イラスト/佐々木千絵※女性セブン2020年1月2・9日号
2019.12.20 16:00
女性セブン
【嵐山光三郎氏書評】三姉妹と「みなしご」のおりなす物語
【嵐山光三郎氏書評】三姉妹と「みなしご」のおりなす物語
【書評】『ファースト クラッシュ』/山田詠美・著/文藝春秋/1500円+税【評者】嵐山光三郎(作家) 三人姉妹の自我と情熱と欠落がどれほどの事件をまきおこすか、というハラハラドキドキのハードボイルド・ロマン。裕福な高見澤家は、父(やがて死亡)が輸入家具を扱う貿易商で、気品のある母、謎の家政婦タカ、三姉妹がおりなす「女の園」である。 そこへ突然、力(リキ)というひねくれた少年が入ってくる。父の友人の息子で、「お母さんが死んでかわいそうだから引き取った」と説明される。「じつは父の愛人の連れ子」だったからさあ大変。 父と愛人のあいだに産まれた子ではなく、愛人の連れ子というビミョウな距離感がクラッシュ(こなごなにくだける)を生む。「ファースト クラッシュ」とは「初恋」のことだが、淡く甘酸っぱい「初恋」ではない。「両親が亡くなった不憫な子」は、物腰が低く、野卑だったが、神戸育ちの関西弁を使って、少しずつ娘たちを籠絡していく。「みなしご」が家族の一員になるなんて、「なんてステキなんでしょう」と興奮する。 第一部は次女の視点からリキという不良少年の魔物的魅力が語られる。次女は本ばかり読む夢想的な少女。第二部は長女の視点からリキの別の人格がわかる。ヴァイオリンを弾く美少女の長女はリキを召使いとして扱い、登校するときの荷物を持たせる。第三部は甘ったれでわがままな三女の視点でリキの、斜に構えた影が示される。 三姉妹はそれぞれの視点でリキに恋して、クラッシュをくらう。リキはどの視点から見ても、捨て犬の息を吐く「人たらし」であったのだ。三姉妹のみならず、リキに反発していたはずの母も、家政婦もリキにしてやられる。 怖るべし三姉妹。それを手玉にとるリキ。胸に氷砂糖の刃物として刺さった傷が、いつまでも溶けない。それが「ファースト クラッシュ」なのだ。なにしろ「みなしご」のジツブツが現われて、重心を低く構えて三姉妹をトリコにしていくんだから、つくづく、「みなしご」になりたくなった。そして、ビックリ仰天のラストシーンに泣かせられて、涙ボタボタ。※週刊ポスト2019年12月13日号ファースト クラッシュ
2019.12.06 16:00
週刊ポスト
左から嶋さん、山田さん、中川さん
山田詠美氏、血の繋がりよりも濃密な時間の共有にこそ価値あり
 8月5日、東京・下北沢の本屋B&Bで開催されたイベントは大盛況に終わった。作家・山田詠美さんが、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんの依頼に応えて登壇したのだ。題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。 中川さんの元上司である博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが司会を務めた2時間にわたる鼎談。2人が語る芥川賞の騒動や「なっとらん、ドーン!」と机を叩いたことなどに、会場は大いに沸いた。◆失う怖さを知っていると人生の向き合い方が変わる くだけた話題でひとしきり盛り上がった後は、お互いの死生観を語るタームへ。人と出会うことの面白さや、それと表裏一体な大切な人をいつか失うことの恐怖について。「失った経験」を持つ大人だからこそわかる人生の実感とは…。嶋:ところで、ネットをやらない山田さんが、『ウェブはバカと暇人のもの』という本を出すような中川の本を読み始めたきっかけは何だったんですか。山田:私、書店を徘徊するのが好きなんですよ。恋愛と一緒で、出会い頭のハプニングの楽しみがあるから。そうすると、自分に合う本と目が合う時があるんです。中川くんの本もそう。目が合って読んでみたら、すごく面白かったの。私がいちばん好きなのは『夢、死ね!』(星海社新書)ですね。あれは素晴らしい、若者に読ませるべき一冊ですよ。中川:本当ですか。ありがとうございます。山田さんが僕について言及してくれたのは、『縁の切り方』(小学館新書)でしたよね。山田:そうそう。私はあの本を読んで、「この人は失うことを知ってる人なんだな」と感じました。嶋:中川はあの本をどういう動機で書いたの?中川:あれは、僕の元婚約者が自殺したことがきっかけです。彼女以外にも僕はいろんな人と交流しましたが、でも結局、死んだ彼女が自分にとっていちばん大事だったんです。言ってみれば、そこまで重要な人の自殺を止められなかったという後悔から書いた本です。山田:新しい何かに出会うことと、それを失うことって裏表じゃないですか。いちばん大切な人を、明日失うかもしれない。そういう怖さを抱えているかいないかで、人生を大事にする方法って全然違ってくるよね。中川:山田さんは『明日死ぬかもしれない自分、そしてあなたたち』(幻冬舎・2013年)という長編で、どんなにいろいろな人が死のうが、私にとって大事な人が死ななければいい、という内容を書いてますよね。僕はあの言葉はビートたけしが東日本大震災について語っていたことと近いなと思っていて。山田:そうなんですか?中川:はい。あの時にたけしさんは、「2万人が死んだ事件が1つ起きたのではない。1人が亡くなった事件が2万件起きたんだ」と言ったんです。遺族はみんな自分のいちばん大事な人のことしか考えられない。山田:たけしさんに先を越されていたか。中川:同じことですよね。でもやっぱり本当のことってそうでしょう。命ってそういうことだと僕は思いますね。山田:誰かにとってのかけがえのない1人が死ぬことと、大災害で千人が死ぬことは、ある意味では何も変わらない。千の死には千の悲しみがあって、その内訳をしつこく追い求めていくのが作家のすべきこと。 日本の社会は血縁を重視したがりますけど、私は血の繋がりより、どんなふうに濃密な時間を共有してきたかの方に価値があると思う。人の生き死にを左右するのは、明らかにそっちだと思うんですよね。幸も不幸も外から見て本当のところはわからない。これからもそういう立場で小説を書いていきたいと思っています。【プロフィール】◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。撮影/政川慎治※女性セブン2019年9月12日号
2019.09.04 07:00
女性セブン
左から嶋さん、山田さん、中川さん
原田龍二の不倫謝罪と吉本社長の会見になぜ嫌悪感あったのか
 東京・下北沢の本屋B&Bで開催された作家・山田詠美さんとネットニュース編集者の中川淳一郎さんと博報堂ケトル・嶋浩一郎さんが「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」と題するイベントを行った。 芥川賞の騒動についてや、ネットニュースの見出しがおおげさ! というツッコミなどで、会場は沸き立つ。笑い、頷き、そしてまた笑う、とどまることを知らない“山田ワールド”が続いた。◆不倫が悪いことだとは私はまったく思わない 会場の空気がすっかりほぐれたところで、話題は芸能ネタへ。芸能人の不倫謝罪から吉本興業社長の言い訳まで、最近注目の会見の中で、山田さんが「なっとらん、ドーン!(机を叩く音)」となったポイントとは?中川:さっきのネットニュースのタイトルには「歓喜」とか大袈裟な表現が頻出する、といった話に戻りますが、僕は作家の言葉のセンスがすごく気になるんですよ。山田さんはセックスをHと言い換えるのもイヤなんですよね。そう言われると激怒します?山田:激怒はしないけど、ケッとは思うよね(笑い)。だって、そういうふうに誤魔化さなくてもいいじゃない。なんだか貧乏くさい感じがする。中川:女性セブンの連載コラム「日々甘露苦露」では原田龍二の不倫謝罪会見にも嫌悪感をあらわにしてましたよね。ラブホテルに行く金をケチって4WDでやりまくった男。山田:まあ、不倫とかは別にいいんですよ。私は自分と無関係の不倫を道徳的に悪いと思ったことがないので、やりたい人はどんどんしてください。あの会見で許せなかったのは、不倫発覚で奥さんに何と言われたかと聞かれて、「『原田、アウト』って言ってくださいました」って答えたんですよ。妻に敬語を使う夫の言語感覚が嫌なわけ。中川:吉本興業社長の会見は? あれもまあグダグダのひどい内容でしたけど。山田:吉本の社長の会見は、内容以前に50代にもなって「僕的には~」と平気で言ってしまうセンスの悪さですよ。私、言葉のセンスには面倒臭いんです。体を「カラダ」にしたり、「ホメる」「イヤ」とか意味もなくカタカナに置き換えるのも駄目ですね。中川:申し訳ございません。まさに僕です(笑い)。山田:あと、忙しいことを「バタバタしちゃって」と言い訳する編集者にろくな奴がいない、と内館牧子さんの本にもありましたね。それは私もわかるな。中川:え! 山田さん、そこは僕も同感ですよ。こないだ「バカほど『バタバタ』『要するに』と言う」ってタイトルのコラムを書いたばかりなんですよ。バタバタとかパッツンパッツンとか、お前は鳥か? 一生羽を振っとけボケ!って。山田:そこは合うじゃん(笑い)。でもまあ、あんまりこういうこと言いすぎると、嫌なおばさんになっちゃうからさ。もうやめときましょ。【プロフィール】◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。撮影/政川慎治※女性セブン2019年9月12日号
2019.09.03 16:00
女性セブン
イベントでは、ネットニュースの見出し問題について語る場面も
なぜ、ネットニュースは見出しが大げさなのか?
 8月5日、東京・下北沢の本屋B&Bで、作家・山田詠美さんと、ネットニュース編集者の中川淳一郎さん、そして中川さんの元上司である博報堂ケトルの嶋浩一郎さんによるトークイベントが開催された。依頼に応えて実現した一夜限りのこのイベントは、題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。2時間にわたる鼎談の中で、「なっとらん、ドーン!」と机を叩いた事柄とは? ウェブメディアの「見出し」問題について語り合った。◆ネットニュースは大げさ?中川:『女性セブン』で連載中の「日々甘露苦露」は僕も読んでいますが、山田さんのエッセイって怒ってるネタが結構多いですよね。山田:ああ~、そうかも。嶋:その着眼点はさすがネットの編集者だよね。ネットの記事のPV(ページビュー)数が多いのって喜怒哀楽の中でも圧倒的に「怒」。読んで怒りたくなる記事が多いんですよ。山田:聞きたかったんだけど、ネットのニュースって何で見出しがあんなに大げさなの? 全然たいしたことない出来事にでも、激怒・歓喜・絶賛といった言葉がしょっちゅう使われますよね。「切った前髪をファン絶賛!」とか(笑い)。私、歓喜なんて言葉、小説でも使ったことないですよ。中川:それはですね、そういう大げさな言葉を使わないと理解できない読者が日本には4200万人ほどいるからなんです。「すごい」よりちょっと難しい漢字くらいがちょうどいい。嶋:だから「○○○○○(某大物芸能人)激怒!」という見出しの記事がいちばんPVを取れてしまう。山田:なるほど。わかりました。中川:その仕事をしているだけに、ちょっと痛いところ突かれましたが(苦笑)、逆に山田さんはSNSになぜ興味がないんですか?山田:別に、楽しく使っている人はいいんですよ、全然。うちの妹も夢中になってるし。でも「日々甘露苦露」にも書きましたが、幸せ自慢をするためだけにいちいち書き込む人って、実はあんまり幸せじゃないんだろうな、とは思っていますね。中川:辻希美とか幸せ自慢をずっと書きまくってますけど?山田:辻希美さんは実際幸せだからいいんじゃないの? 私、旦那さんの杉浦太陽くんも好きですよ。中川:彼らのブログの月収、すごいですよ。××万円くらいは軽くいってると思います。(場内驚愕)山田:へえ。でもお金が人を幸せにするわけじゃないからね。ただ、不特定多数の人にアピールしなきゃいけない幸せは、幸せじゃないだろうなと私は思っているだけです。中川:でも山田さんだって連載エッセイで、夫のヒロくんが49歳から50歳になったって幸せネタだけで1本エッセイ書いて不特定多数にのろけちゃってるじゃないですか。山田:私が結婚した夫と仲よくやってるって話? だって可愛いんだもん。まあ友達にアピールしてるという意味では、SNSより私の方が迷惑かもしれないな(笑い)。中川:まあ、でもそれも山田さんの“技”でございますね。嶋:でも最近はSNSでスターになるより、フォロワーでいて自分の好きなことやっている方が人生は幸せじゃん、っていう流れが来てますよね。そういう広告もありますし。山田:わかる気がする。SNSとかに詳しい人に限って、あんまりネットを過信するのはやめようよって方向に行ってますよね。中川:俺はやめようとしてませんけどね!山田:あなたはどうぞやってちょうだいよ(笑い)。でもまあSNSってツールが新しいから便利に見えるだけで、あんまりそれ自体を過信しない方がいいと私は思います。【プロフィール】◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。撮影/政川慎治※女性セブン2019年9月12日号
2019.09.02 16:00
女性セブン
最近の芥川賞事情についても言及した
芥川賞選考委山田詠美氏、古市憲寿氏に「これからも頑張って」
 8月5日、東京・下北沢の本屋B&Bで、作家・山田詠美さんと、ネットニュース編集者の中川淳一郎さん、そして中川さんの元上司である博報堂ケトルの嶋浩一郎さんによるトークイベントが開催された。中川さんの依頼に応えて実現した一夜限りのこのイベントは、題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。2時間にわたる鼎談の中で、「なっとらん、ドーン!」と机を叩いた事柄とは? 話は芥川賞のことに…。◆古市憲寿氏が芥川賞を受賞する日は来ない? お酒を飲みながら進んだ、このイベント。杯を重ねるにつれて話題は「なっとらん、ドーン!」と言いたくなる最近の芥川賞事情へ。選考委員を16年間務めてきた山田さんの目に、最近の芥川賞にまつわる騒動のアレコレはどう映っているのか?嶋:ところで芥川賞選考委員の山田さんから見て、社会学者の古市憲寿くんの小説はどうですか? すでにもう2回も芥川賞の候補に挙がってますけど。山田:私に古市くんの悪口を言わせようとしてるでしょ(笑い)。中川:古市さん、前回の芥川賞の結果発表前に『とくダネ!』(フジテレビ系)に出て金屏風の前で受賞会見シミュレーションとかやってて楽しそうでしたよね(笑い)。あれ見ました?山田:見ました。でも注目されてる人が受賞の発表の前に大騒ぎされるのって、昔からずっとよくあることなんですよ。あれはまあ調子に乗ってるんだな、って思うくらいでしょうがないでしょ。でも落選後に、選考委員の会見を恣意的に切り取って、「あの選考委員がいるから受賞できなかった」みたいな編集をしたのはいただけないな。 今回の芥川賞候補になった作品も前作よりはうまかったんですよ。でも参考文献に小説が載っていて、そっちを読んでみたら古市くんのよりもずっと面白いの。さらに、これは選評でも書きましたが、古市くんがしてることは模倣よりももっと看過出来ないたぐいのことなんですね。中川:じゃあ何でそのような作品がノミネートされるんですかね?山田:知らないよ。文春が悪いんじゃないの(笑い)。中川:今の選考委員ってどうなんですか。ぶっちゃけ相当揉めたりします?山田:今は割と同世代の作家が揃っているので、さほど面倒なことはないかな。村上龍や石原慎太郎のようなわからず屋のオヤジが2人いた時は大変でしたよ。女性の選考委員にネチネチ突っかかって、涙ぐませてたからね。中川:でも山田さんだって古市さんのことは明確に「私が選考委員やっている間はお前は取れねえぞ。この野郎」くらいのスタンスじゃないんですか。山田:そんなこと一言も言ってないじゃん! 私は別に古市くんは嫌いじゃないよ。彼は決して小説を書く才能がないわけじゃないので、これからも頑張ってほしいですね。【プロフィール】◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。撮影/政川慎治※女性セブン2019年9月12日号
2019.09.01 16:00
女性セブン
言いたいことをぶちまける山田詠美氏と中川氏
山田詠美『つみびと』執筆背景を語る 「男で人生悪く変わる」
 東京・下北沢の本屋B&Bで開催されたイベント(8月5日)は、チケットが発売されるや瞬く間に売り切れる大盛況ぶり。こうしたイベントにはほとんど登壇しない作家・山田詠美さんが、ネットニュース編集者の中川淳一郎さんの依頼に応えて実現した一夜限りのそれは、大きな反響を呼んだ。題して「今の世の中に言いたいこと、ぶちまけます」。中川さんの元上司である、博報堂ケトルの嶋浩一郎さんが司会を務めた2時間にわたる鼎談の中で、2人が「なっとらん、ドーン!」と机を叩いた事柄とは…。◆ネットニュース編集者とアナログ作家の接点は?嶋:山田さんと中川くんは今日が初対面なんですよね。中川:はい。僕が今会いたい人、ということで山田さんをお招きしました。僕、もう今日は緊張しちゃって、楽屋ですでにビール4杯飲んじゃってますからね(笑い)。嶋:中川はこう見えてもネットニュース隆盛の中で大活躍してきたネットニュース編集者なんですけど、山田さんはネットは一切しないんですよね?山田:私はアナログ人間なのでネットにはまったく興味ないんです。でも中川くんの本は好きで、新刊が出たら必ず買って読んでいます。許せることと許せないことのラインが自分と似ている気がして。以前のインタビューで、「気になってる書き手は?」と聞かれて彼の名前を答えたから、それを誰かが目に留めて伝えてくれたのかな。中川:いや、その記事を自分で見つけて「どういうこっちゃ?」とびっくりしました(笑い)。僕は山田さんの新刊『つみびと』についてぜひお聞きしたかったのですが、これは2010年の大阪2児置き去り餓死事件に着想を得ていますよね。風俗店で働いていたシングルマザー(下村早苗)が、幼い2人の子を部屋に放置して餓死させた事件です。婚活殺人の木嶋佳苗でも、後妻業殺人の筧千佐子でもなく、なぜ山田さんは彼女を描こうと?嶋:あの事件が起きた当時、彼女はまだ23歳でしたよね。山田:そう。今、名前が挙がった女性たちよりも、彼女はずいぶん若い。そんな若い彼女が子供を置き去りにして遊ぶ時の心理を想像したら、多分、心を麻痺させないとやっていられなかっただろうと思うんです。 でもどこかで何かの選択を間違えなければ、あんなひどい事件を起こさなかった可能性だってあるでしょう。女性なら誰しも、そういう危うい瞬間が人生にあることを理解できるんじゃないかな。中川:大阪で起きた事件ですが、小説では舞台を北関東にしていますね。山田:私は東京出身ですが、父親が転勤族だったので地方をいろいろ回っていて。北関東には土地勘があったので、リアリティーを出せるんじゃないかなと思ったのが理由です。あのエリアの因習にとらわれている感じがすごくわかるので。中川:因習にとらわれている感じ?山田:ひどい人生から脱け出したくても、地域や周りがそれをさせてくれない感じ、といえば伝わるかな。ヤンキーのコミュニティーですよね。沖縄もそうかもしれない。中川:山田さん、以前に対談で「女は男でつまずく」っておっしゃっていましたよね。そういうこととも繋がりますか?山田:選択肢が奪われた家庭で育つと、人は間違った手を掴んでしまいやすくなると思うんです。女性の場合は特に、それが恋愛という形で表れやすい。本当の救いの手じゃなくて、くだらない男の手を掴んだことで人生が悪く変わる。そういうことって実際多いでしょう。中川:僕が印象的だったのは、下村被告をモデルにした主人公の母親。母親は娘よりずっとふしだらなんですよ。でも彼女はわが子を殺さずに済んだ。なぜなら逃げたから。主人公は逃げられなかったから、殺してしまった。母娘のその差に山田さんはどう向き合ったんですか。山田:母親の方は、言ってしまえば事情があって図らずも逃げることができたんです。でもそのこと自体が、娘には「私は逃げちゃいけない」という呪縛になってしまった。そうやって頑張らなきゃと追い詰められた結果、彼女は子供を餓死させてしまった。その人生の皮肉も含めて、フィクションだからこそ書けることがあると思って書きました。【プロフィール】◆山田詠美/やまだ・えいみ。1959年東京都生まれ。作家。1985年「ベッドタイムアイズ」で文藝賞を受賞し作家デビュー。1987年『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』で直木賞を受賞したほか、数々の文学賞を受賞。最新作は『つみびと』。◆中川淳一郎/なかがわ・じゅんいちろう。1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。一橋大学卒業後、博報堂入社。企業のPR業務に携わる(2001年退社)。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』など。◆嶋浩一郎/しま・こういちろう。1968年東京都生まれ。1993年博報堂入社。企業のPR業務に携わる。2001年朝日新聞社に出向し「SEVEN」編集ディレクターに。2004年「本屋大賞」立ち上げに参画。2006年「博報堂ケトル」を設立。2012年「本屋B&B」を開業。撮影/政川慎治※女性セブン2019年9月12日号
2019.08.31 16:00
女性セブン
山田詠美さん
名古屋・娘と準強制性交父の無罪判決、山田詠美氏の感想
 2010年大阪西区のマンションで、3歳女児と1歳9ヶ月男児が母親に置き去りにされて死亡した。23才の母親は交際相手と遊び、再び自宅に戻ったのは約50日後だった。この誰もが衝撃を受けた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た作品が、山田詠美の新作『つみびと』(中央公論新書)だ。35年になろうという作家生活で、はじめての事件ものである。『つみびと』は子供を置き去りにした母・蓮音、そして蓮音の実母・琴音、さらに亡くなった桃太と萌音の視点で展開する。(インタビュー・構成/島崎今日子)──琴音と蓮音の人生を書きながら、詠美さんは何を思いましたか。 お母さんの琴音は逃げる女で、娘の蓮音は逃げない女なんですね。だから、性暴力の被害に遭ったときは、「逃げるが勝ち」だと思いました。もちろん、しがらみからも、「逃げるが勝ち」。みんな何かが起こったときって、「自分が悪いんだ」と思ってしまいがちだけれど、物事って連鎖反応で起こっていくもの。そこで逃げないで、「なんとかしなくっちゃ」と踏みとどまっていると、どんどん追いつめられて、最初に逃げられたときよりも酷いことになってしまうことが多い。酷いことに手を貸すことになってしまったり。蓮音がそうですよね。だから、両極端なふたりを書きながら、「逃げるが勝ちだよ」って。 無責任になってもいいと思うんです。それは決して子供に対してということじゃなくてね。自分と子を守るためには、周囲の人たちへの気遣いは一切いらないし、しがらみを振りほどいていくしかないと思う。──琴音に起こったことは現実にもいっぱいあります。3月に、名古屋の地裁で娘をレイプしていた父親の無罪判決が出ました。 とんでもない判決ですよね、あれは。男の人だって、自分の娘だったら、妻だったら、母だったらと考えてみたらいい。あの判決に何も思わなかったらおかしいよ。子供は力がないんですよ。とくに近親相姦では、扶養者は生殺与奪権を握ってるんだから! 第一、現実の世界で父が娘とセックスしていいの? 私、1980年代半ばにテレビの仕事でブレイクダンスやヒップホップの発祥地を見たくてニューヨークのブロンクスに行ったことがありました。当時のブロンクスはまだ危険地域で、「絶対にパトカーから出てはいけない」と言われてパトロールにつきあったんですね。そのとき、小さな公団みたいなところに大家族がぎっしり暮らしているところがあって、警官が「ここは生態系が壊れてるんだよ」と言ったの。父親にレイプされた娘が子供を産んでというのが何人もいた。母親は、やらせないと男が逃げてしまうからってそれを黙って見てる…。──すさまじく哀しい風景です。 貧しさと教育を受けられないどうしようもない環境の中で、犠牲になるのは子供。その子供たちは親を見て学んでしまうから、負の連鎖が断ち切れない。性暴力って、人の心を壊します。そこのところがわかっていないから、名古屋のような判決になるんじゃない? 昔より言える場所が出てきてはいるんだけれど。──世の中も少しは動いていますが、この小説が動かすものは確実にあると思います。 シングルマザーへの周囲の視線も、昔に比べればずいぶん理解がありますよね。ただ、それはお金持ちのシングルマザーに対してであって、貧しいシングルマザーにはまだまだ厳しい気がします。私がこれを書いたからと言って、何かが変わるわけではない。性暴力がなくなるわけでも、虐待がなくなるわけでもない。でも、一方的に流される物語を信じるのではなく、そこに至った経緯や、否応なく絡み合ってくる人間関係があることがわかってもらえれば、と。 今回は実際の事件に形を借りたけれど、これは私が作り上げた世界でもあります。常々、小説家が選んだ言葉でしか描けない人間模様を書きたいと思っていて、そういう意味では、今回の作品で何か普遍的なものを書けたという手応えはあります。──口に出して言う「幸せ」がキーワードになっていますね。 幸せもこの作品のテーマです。人の数だけある「幸せ」と「不幸」というものを事細かく書いていきたいというのが、この作品に限らず、作家としての私のテーマです。それらがどんなもので作られていくのかを考え始めるとキリがありませんが、これからも、隙間なく「幸せ」と「不幸」を書いていきたいです。インタビュー・構成/島崎今日子、撮影/五十嵐美弥※女性セブン2019年7月4日号  
2019.06.26 07:00
女性セブン
「大阪二児置き去り事件」を新刊の題材とした理由を語る山田詠美さん
山田詠美 本当に幸せな人はSNSでアピールしなくてもいいのに
 最新刊『つみびと』で作家生活35年にして初めて現実の事件──「大阪二児置き去り死事件」──に着想を得て小説を執筆した山田詠美さん。 今から9年前の夏──7月30日に大阪市内のワンルームマンションで、3才と1才の幼児が餓死しているのが発見された。ふたりを灼熱の部屋に放置したのは当時、風俗店で働いていた23歳の母親・下村早苗被告だった(2013年に懲役30年の刑が確定)。幼い子供を置いて男友達と遊んでいた末の事件というかつてない衝撃から、彼女は「鬼母」と呼ばれ、その行状が連日大きく報じられた。いま、繰り返される悲劇について思うことは。山田詠美さんに話を聞いた。(インタビュー・構成/島崎今日子)『つみびと』中央公論新社/1728円〈私の娘は、その頃、日本じゅうの人々から鬼と呼ばれていた。鬼母、と。(中略)彼女は、幼ない二人の子らを狭いマンションの一室に置き去りにして、自分は遊び呆けた。そして、真夏の灼熱地獄の中、小さき者たちは、飢えと渇きで死んで行った。この児童虐待死事件の被告となったのは、笹谷蓮音、当時二十三歳。私の娘。〉──『つみびと』は蓮音の母・琴音の独白から始まる。蓮音、琴音、そして亡くなった桃太と萌音。それぞれの視点から、事件に至るまでとその後、そして幸不幸の在処を描き出す。『つみびと』は、3人の視点から描かれている。罪を犯した蓮音と、その母の琴音、そして死んでいく子供の一人、兄の桃太4歳。当事者たちの心理が深いところまで描かれ、事件の萌芽が複雑に絡み合っていく。帯には、「本当に罪深いのは誰──」とある。──もしかして、今、獄中にいる彼女に向かって書かれたのかという気がしました。山田:うーん。私からすると、自分が幸せになる方向にもっていくような言葉を持たない人たちを、私が言葉を与えてちゃんと語り尽くしてあげようという欲望なんですけどね。それが二児を置き去りにした女の人であり、その母親であり、その子供たち。複雑なパズルがきっちりと組み合わさったとき、大人たちがどうしてここまでの事態にしてしまったのかを解きほぐす感じで書きたかった。あの事件は、誰のせいでもないけれど誰のせいでもある…。もちろん、子供たちのせいではありませんが。〈娘の蓮音は、子供たちを殺した。人殺しだ。でも、彼女は人殺しに仕立ててしまったのは私ではないか。あの子の一部は、私によって、とうに死なされていたのだ。〉──琴音の独白部分ですが、いつにも増して、緊張感あふれる筆遣いに息もつけません。山田:それは、はじめての新聞連載だったからかも。毎日、仕事場に出かけて2日分を書きました。短い中で読者を飽きさせずにどう読ませるか。随分トレーニングになりました。でも、もともと私は「ミューズが書かせる」ようなタイプじゃないから(笑い)。今回もなるべく冷静に、感情的にならないように心がけて書いていると、「あっ、この人はこんなふうに思ったに違いない」ということが浮かび上がってきました。 擁護するつもりはないので、娘にも母親にも肩入れしないようにと気をつけてました。子供たちの状況がわかる章をはさむことで、こんな酷いことをした女たちだということを思い出しながら書いていた。だいたい女の人が虐待やDVの話を書くと、男が悪いとなりがちでしょ。確かに、『つみびと』に出てくる男たちも悪いんだけれど、描写に徹することで、あえて男の人の心の中には入っていかないように書いています。──だから母と娘の物語としても読めるし、蓮音が孤立して絶望に向かっていく過程もよくわかりました。山田:彼女らの人生で、男は要因。それ以上でもそれ以下でもないということが書きたかったんです。大した男じゃない、それでも躓くには十分だった。じゃあ、なんで躓いてしまうのかというと、小さな頃からの体験であったり、人との結びつきであったり。過去が作ってきた自分というものがある。過去がどういう影響を及ぼし、どういう化学反応が起きて今の自分を作っているのか。そこに至らしめたのは何なのか。どういう環境なのか。そう考えていくと必ずしも責任の所在はひとつではないし、一人ではありません。◆トラウマになっていることって繰り返し繰り返し引き受けてしまう──参考文献は殺人者たちを取材したもの、この事件を追ったもの、そして女子刑務所の内部を取材した3冊のルポだけです。ネット情報なども集めたのですか。山田:ネットは全然見てません。『週刊文春』で連載されていた小野一光さんのルポ「殺人犯との対話」に、2週続けてあの事件が載ったんですね。殺人者たちを取材した連載は毎週面白かったんだけれど、やっぱり心惹かれたのは彼女だけでした。私にはあの2週で十分だった。 この事件って、彼女の顔がいっぱい出たでしょう。制服を着た写真とか、着飾った風俗の写真とか。可愛いんだけれど、哀しい顔してるんですよね。地方にいて、知識や教養をつけることもなくきて、一所懸命虚勢張ってるような感じがして。──逮捕されたあと、そんな状況になっているとは知らなかったという周囲の人の声を弁護士から聞いた蓮音は、「幸せじゃない自分を知られるなんて死んだ方がましですよ」と吐き捨てますね。山田:今って、そういう子、多いんじゃないでしょうか。昔は幸せだと証明する場所もあんまりなかったけれど、今はインスタグラムとか、幸せのアピール合戦の場所がたくさんある。本当に幸せな人はそんなことしなくていいのにね。〈この土地には、さまざまな怒りが渦を巻いていて出口を捜しているのだ。それが男によるものなら、その発露として、暴力や性が利用されるのなんて日常茶飯事。〉──地方の閉塞感も痛いほど伝わってきました。山田:取り残され、疎外された地方都市の怒りの捌け口は、弱い者へ弱いものへ向かっていくという構図ですよね。「時代が進んで、世の中は便利になった」と都会にいる人は思っているけれど、因習に囚われた村の閉鎖性って全然変わっていないと思う。 今回の小説では、私が栃木に住んでいたこともあり、場所をざっくり「北関東」としています。転勤族で、「社宅の子」と呼ばれてたから本当の土着性はわかっていないかもしれません。でも、そこから逃げられないことに甘んじるんだったらまだしも、ひとたび「ここではないんじゃないか」「これは違うのでは?」と思い始めたら、ものすごく苦しいのは痛いほどわかりますよね。逃げたくても金銭的な問題や、教育の問題もある。今は、SNSなど外に出るツールがたくさんあるけれど、その分、かえって生まれ育った場所から自由になれないところがあるんじゃないでしょうか。〈母の琴音が姿を消してから、蓮音は誰かにすがるという行為を自分に禁じたのだった。あらかじめ頼ろうとしなければ、断られて傷付くこともない。呪文を唱えて必死になった。がんばるもん、私、がんばるもん。〉──あの事件では、実際の母親については早くに家を出たという以外、詳しい情報は出ていません。『つみびと』では母親が家を出た理由として、父に殴られ、養父にレイプされた過去が明かされます。母と娘の不幸の根っこにあるのは、多くの事件のそれと同様の暴力でした。山田:参考文献からエッセンスはもらっていますが、琴音に起こったことは全部、私の創作です。それまでの出来事やいろんな人から聞いてきたことを膨らませたり掘り下げたりしていますね。『女性セブン』の連載でもおわかりのように、私はワイドショーが好きだし、新聞は読者欄から読むし。そうしたことの中に小説に向かわせるリアルがあるんです。そこに誠実でありたい。 先日対談した精神科医の春日武彦さんは、結婚した琴音の精神状態がおかしくなっていくところはすごく丁寧に書かれていて感心したと言ってくださいました。琴音は過去からなんとかサバイブしようと、一応まっとうな男と結婚し子供も生まれたのに、家出を繰り返してしまう。トラウマになっていることって繰り返し繰り返し引き受けてしまうんです。インタビュー・構成/島崎今日子、撮影/五十嵐美弥※女性セブン2019年7月4日号  
2019.06.24 07:00
女性セブン
山田詠美さん
作家・山田詠美 「大阪二児置き去り事件」を題材とした理由
 今年1月には千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛ちゃんが、6月にも札幌で2歳の池田詩梨ちゃんが虐待死した。今年に限らず、児童虐待事件はなぜ幾度となく繰り返されるのだろう──そんな問いに、真っ向から迫った小説がこのたび上梓された。 日経新聞連載時より大きな反響を呼んだ山田詠美さんの新刊『つみびと』は、2010年に起きた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た長編小説だ。今から9年前の夏──7月30日に大阪市内のワンルームマンションで、3才と1才の幼児が餓死しているのが発見された。ふたりを灼熱の部屋に放置したのは当時、風俗店で働いていた23歳の母親・下村早苗被告だった(2013年に懲役30年の刑が確定)。本書は罪を犯した蓮音と、その母の琴音、そして死んでいく子供の一人、兄の桃太4歳の視点から描かれる。幼い子供を置いて男友達と遊んでいた末の事件というかつてない衝撃から、彼女は「鬼母」と呼ばれ、その行状が連日大きく報じられた。しかし、子を放置した母親、その母親を産んだ母親の心理に深く迫り小説を綴った山田詠美さんは問う。はたしてつみびとは彼女一人なのか。本当に罪深いのは誰なのか──と。山田詠美さんに話を聞いた。(インタビュー・構成/島崎今日子)──誰もが衝撃を受けた「大阪二児置き去り死事件」に着想を得た作品です。35年になろうという作家生活ではじめての事件ものですが、いつ、なぜ、書こうと思われたのですか。山田:判決が出て、そうたっていなかった頃だったと思います。あの事件は、発覚したときから気になって気になって仕方がなかったんです。なんであんなに関心があったのか。いつもあの彼女のことを考えていました。 テレビのワイドショーや雑誌を見ていると、絶対正義の側に立って糾弾する報道の仕方に苛立つというか、首を傾げてしまうことが多い。それはこの事件に限ったことではないけれど、「選択を一歩間違えれば、こっち側に落ちてしまう可能性が自分にもある」と、私は思ってしまうんです。万が一にも自分は間違えないなんて、とても思えない。 でも、メディアで勧善懲悪で物事を語る人って、そこに考えが及んでいない。自分とは違う世界の話だとばかりに、コメントしているでしょ。この人たちは万が一の分岐点があったとしても、その分岐点の存在にすら気づかないんだろうなと考えたときに、そこを書くのが小説家の仕事じゃないかと思ったの。当事者たちの内面に入っていくのはフィクションの仕事ではないか。なぜだか、私の出番だ、って(笑い)。──なぜこの事件だったのですか。この前年には木嶋佳苗の「婚活連続殺人事件」が起こり、1997年には「東電OL殺人事件」が起こっていて、メディアは騒ぎ立てました。山田:その2つの事件は、「すごいニュースだな」と思いましたよ。桐野(夏生)さんが、「東電OL殺人事件」を材にとって『グロテスク』を書いているし、柚木麻子さんも「婚活連続殺人事件」で『BUTTER』を書いている。どちらも、とても面白いですよね。ただ、事件そのものは私には響かなかったし、私の言葉で語り直してあげたいという気持ちにはならなかった。第一、私はセレブって自分で言ってるやつは大嫌いだから(笑い)。──他の2つの事件と何が決定的に違ったのでしょう。山田:やっぱり、子供がいたことじゃないでしょうか。いたいけなものをちゃんと持っているのに、それを自ら失ってしまう。おじいさんを殺して財産をとること、子供という力を持たないものが附属でついていない女の人が起こした犯罪って、悪い意味で自立した犯罪だという気がします。でも、抵抗できない弱い者たちを巻き込んでしまうのは辛い犯罪であると同時にものすごく卑怯なこと。その卑怯さを自分もわかっているし、隣で奈落が待っているのがわかりながらSNSで幸せなふりを発信している。彼女はどうやってその恐怖を麻痺させていったんだろうか。そう考えると、どうしようもなく哀れな感じが漂ってしまいます。〈蓮音は、自分を一所懸命、励ました。昔から、そうやって立ち上がって来たのだ。どうってことない。がんばるもん、私、がんばるもん。/けれど、ひとりの男の何気ない言葉で、再び力は抜けてしまい、どうにかしなくてはと思いつつ、既にもがく余力も残っていなかった。/「まだ、いいじゃん」/たった、それだけの無責任なひと言によって、蓮音は、子を捨てた母親になった。〉──小説の中では、23歳の母親がホストのひと言で子供の待つ家に戻らなかった瞬間と彼女の内面が繰り返し描写されます。山田:もちろん、子供を殺したことは残忍なことであり、同情の余地はありません。それでも、私はどんな極悪人でも、一点自分で許せる部分と惹きつけられる部分がないと書けないので、彼女にはそれがあったということですね。──彼女自身が「いたいけ」だったのでは? 山田詠美作品に必ずといっていいほど登場する言葉です。山田:それは私の習性で、必ず作品に出てくる言葉ですよね。「いたいけ」とか「後ろ髪引かれる」とか、そういうのが捨てておけない。今回の子供を置き去りにした女の人にも、私はひどく弱いものを感じたんです。 なぜこんなに子供を不幸な目に遭わせたんだという犯罪はいっぱいあって、同情の余地のない親もたくさんいます。たとえば野田の事件の母親は、ずっと夫が隣で支配していたでしょ。支配されて共依存すると、自分の考えを放棄して、何も考えなくなってしまう。それはある意味、楽だよね。だけど、置き去り事件の彼女の場合は、たった一人で半分正気を保ちながらどうしてあんなことができたのか。「ふたりの子供を放っておいてる」と思い出す瞬間の恐怖って、どれほどのものだったろう。 彼女の場合に限っては、一人きりで途方に暮れている姿が思い浮かんでくる。そこをきちんと書いて、私がもう一度物語の中で生き直させてやろう、そういう感じです。それは彼女に対する思いやりでもなんでもないけれど、この人の哀しさを書いてみたいと思ったんですよね。インタビュー・構成/島崎今日子、撮影/五十嵐美弥※女性セブン2019年7月4日号  
2019.06.22 07:00
女性セブン
【著者に訊け】島崎今日子氏 『森瑤子の帽子』
【著者に訊け】島崎今日子氏 『森瑤子の帽子』
 世の女性がファッションや生き方に以前ほど肩肘を張らなくなったのは、思えばいつの頃からだったろう。真っ赤な口紅に肩パッド、そして大きな帽子がトレードマークだった人気作家が、1993年夏、52歳の若さで亡くなって26年。島崎今日子著『森瑤子の帽子』は、華やかなイメージや虚像ばかりが先行しがちだった作家の実像に多くの証言で迫った渾身のノンフィクションだ。 前作『安井かずみがいた時代』(2013年)でも島崎氏は高度成長からバブルに至る時代を活写し、ことに女性が自立を切望した転換期を鮮やかに切り取ってみせた。 その渦中に森もまたおり、38歳の時、〈夏が、終ろうとしていた〉という印象的な書き出しで始まる初小説『情事』ですばる文学賞を受賞。3人の子育てに追われる〈ミセス・ブラッキン〉から主婦羨望のアイドル・森瑤子に転身を遂げた彼女は、一方で家族にすら言えない孤独を抱えてもいた。「『情事』が出た1978年当時、私はまだ20代。それでも話題の本をリアルタイムで読みましたし、イギリス人の夫と美しい3人の娘をもつ彼女の私生活は当時、誰もが知るところでした。 元々私は自分が最も多感な時期に見た1960~1980年代の風景や女性の意識の変化に興味があり、安井さんの次は誰を書こうかと思った矢先、森さんと個人的にも親しかった山田詠美さんが、『島崎さんが森さんのこと書きなよ』と言ってくれて。 ただ私は彼女を作品でしか知らないし、10人に聞いたら10通り、真実ってあると思うんです。私自身、昨日はAと言ったのに今日はZと言ったり、矛盾した真実の集合体が人間だと思うので、予断は極力挟まず、証言やディテールをモザイク状に積み上げる中に一つの像が浮かぶよう心がけました」 その山田氏が〈ゴージャスであることに勤勉〉とも評する森瑤子、本名・伊藤雅代は1940年11月、母・喜美枝の川奈の実家で生まれ、翌春、父・三男に呼び寄せられる形で中国・張家口へ。1945年3月、母や弟と帰国し、父が復員したのは翌年6月だった。その間、美しく気丈な母は友人と託児所を始め、弟や妹と比べて厳しく育てられた長女は、〈母の愛情に飢えていた自分〉を何度も作品に書いている。 一方、小説家志望だった父は生涯に12回もの転職を繰り返し、下北沢に瀟洒な洋館を買い、子供にはバイオリンやピアノを習わせた。後に母は美容院を開業し、留学生や下宿人が同居する中で育った森は、1959年春、東京藝大器楽科に入学する。「サルトルとボーヴォワールの関係やサガンに誰もが憧れた時代に、まだ恋にも流行にも疎かった森さんは、油画科の友人たちとの交流を通じて感性を磨いていく。彼女が片思いした自称詩人の通称〈ムッシュウ〉と〈ガコ〉の関係なんてまさにサルトルとボーヴォワール的です。また婚約パーティまで開きながら結婚を反対された故・亀海昌次さんとの友情は、人気作家とその装丁を手がけるデザイナーとして生涯続きます。 この刺激的な青春時代が彼女の華やかな交友関係の根底にはあったと思うし、筆名に繋がる女性とも器楽科で出会うんです」 後に日本初の女性コンサートマスターとなる同級生、旧姓・林瑤子氏だ。美しく才能ある林氏に森は憧れ、〈私は彼女の名をほとんどそのまま、ペンネームにしている〉と本人も書く。むろん勝手に名前を使われた側は複雑だろうが、林氏の証言は森の主婦時代の屈託をよく伝え、妻、母、作家と、人生の場面ごとに異なる顔を見せる森瑤子という迷宮に、読む者もまた引き込まれてゆくのである。◆自ら安定を壊しつつ突っ走った 本書では冒頭の山田氏に始まって、よく安井たちと麻布キャンティ等に集った大宅映子氏や歴代の編集者。三者三様に母を語る娘たちや、森が眠る与論島でカフェを営む夫アイヴァン・ブラッキン氏。一家の素顔を知る秘書の本田緑氏や、女性誌等々で噂にもなった近藤正臣氏、今は亡き亀海氏との仲を知る友人たちなど、取材対象は数十名に上る。 さらに『夜ごとの揺り籠、舟、あるいは戦場』執筆に際して森のカウンセリングを行なった河野貴代美氏や、遺産配分を託された税理士まで、著者は時に守秘義務寸前まで踏み込んでもいる。「アイヴァンさんの望み通りカナダの島を買ったものの、維持費が大変だとか、森さんは私生活のあれこれを書いています。だから世間は、彼女が夫の事業を助けるために仕事を増やしていたことまで知っていた。 稼ぎのいい妻と夫がどう折り合うかはカップル共通の命題ですが、むしろ彼女は安定を自ら壊しつつ突っ走ったふしがある。特に後半は瘡蓋を掻き毟り、喉に指を突っ込んででも書くべきテーマを吐き出した。それでも書き続けるのが唯一の欲望だったんだろうなと」 森自身が書いている。〈既成事実に題材を求めるというより、題材のために事実を作っていくというように逆転していきました〉。 そしてその欲望の形から島崎氏は目を背けず、〈彼女の三十八歳からの人生は物語を紡ぐことがすべてに最優先された。そのために社交があり、生活さえあって、作家は生身をさらしながら夫や家族を傷つけることも厭わず、書き続ける〉と書く。「でも彼女と親交のあった五木寛之さんが言うんです。〈森さんが同じ時代に生きた人に与えた一回性の感動というのは、古典のそれの百倍くらいはあったと思う〉って。森さんはこの言葉だけでも報われたんじゃないかと思います。 ラカンは『人間の欲望は他者の欲望だ』と言ったけれど、彼女は他者の欲望をこれでもかというほど叶え、しかも誰に聞いても人柄を褒められる女性なんです。そんなチャーミングで勤勉で、五木さんのいう〈シベリアの農婦〉のような素朴さもありつつ、常に深い哀しみや自己嫌悪を抱えていた彼女を、私は可哀そうだなんて思わない。むしろ自分にしか生きられない人生を生き切ったその魂に、眩しさすら覚えます」〈最初からRなど愛してはいないのだ。彼女が愛したのは、自分のイマージュが創り出したR’の方だった〉と「死者の声」(自選集収録)に書いた森は、全てにダッシュのついた虚構の世界を自らも生きた。が、それが実は人間の真実かもしれず、消費されることを恐れず、果敢に時代を駆け抜けた彼女を失って以来、この国の右肩も上がらなくなった?【プロフィール】しまざき・きょうこ/1954年京都府生まれ。甲南大学卒。編集プロダクションを経てライターに。『AERA』での連載「現代の肖像」等で活躍し、インタビューの名手と定評。著書に「現代の肖像」をまとめた『この国で女であるということ』や『安井かずみがいた時代』等。「私はファッションは川久保玲様、音楽は中島みゆき様と、各分野に強烈に好きな女神様が1人いて、その存在がいれば大満足。お布施と称して出費も相当しています(笑い)」。160cm、A型。構成■橋本紀子 撮影■国府田利光※週刊ポスト2019年3月22日号
2019.03.17 16:00
週刊ポスト
作家・森瑤子の葛藤と焦燥 バブル期を写すノンフィクション
作家・森瑤子の葛藤と焦燥 バブル期を写すノンフィクション
【著者に訊け】島崎今日子さん/『森瑤子の帽子』/幻冬舎/1836円【本の内容】 1978年、森瑤子が「情事」でデビューしたのは38才の時。瞬く間に時代の寵児となった彼女について、本書の冒頭で山田詠美はこう語る。〈「八〇年代から九〇年代にかけてのグラマラスライフを、小説を書くことによって実践した人です。(中略)それまでの作家の中で、小説を読んで、ライフスタイルまで真似したくなる作家はいなかった。森さんが最初じゃない?」〉。近藤正臣、北方謙三、五木寛之、夫や娘、編集者など、森との思い出を洗いざらい著者に打ち明けた内幕から、知られざる実像が浮かび上がる。 本の表紙の森瑤子は、トレードマークともいえる豪華な帽子をかぶって笑っている。1978年、「情事」でデビューし、1993年に胃がんで亡くなるまで、女性の性、母と娘の葛藤など先駆的なテーマで作品を次々発表、贅沢な暮らしぶりでも読者を魅了した。「時代と女性というのが私の書きたいことで、女性の意識がドラスティックに変わっていった1960年代、1970年代、1980年代に一番関心があります。その時代を生きた作詞家の安井かずみさんについて書いたあと、次に書きたいと思ったのが森さんでした」 森と親しかった、山田詠美のすすめがあったという。「森瑤子というと、キラキラしたゴージャスなイメージですけど、実は繊細で、多面的な深みのある人。『情事』から亡くなるその時まで、自分がこうありたい世界を描き、満たされない欲望を力で現実のものにしていった人です」 本名伊藤雅代。東京藝大でヴァイオリンを専攻するが音楽の道はあきらめ、広告会社に就職。イギリス人男性と知り合い結婚、ミセス・ブラッキンとなる。専業主婦をへて作家に。藝大時代に憧れた友人の名前に似た森瑤子を筆名に選ぶ。豪奢な衣装と華やかな社交生活でたびたびメディアに登場。カナダの島を買ってプールやテニスコートをつくり、与論島にも別荘をつくった。「いまの作家にこういう人はいない。高度経済成長や1980年代という時代とリンクして、森さんの欲望もどんどん膨らんでいった。森さんは綺麗な人が好きで、周りにモデルになる人がたくさんいたから、その人たちの着こなしなりライフスタイルなりを自分のものにしていったんですね」 生まれてから死ぬまでを時系列で描くのではなく、周囲にいた人々の目がとらえた姿を映し出す。山田や五木寛之、北方謙三ら親しかった作家や古くからの友人たちのほか、3人の娘と夫もインタビューに答えている。記憶の中によみがえる森瑤子はさまざまな違う顔を見せ、くり返し死ぬ。「この本は森瑤子の死という悲劇で終わりますけど、森さんの美意識はハッピーエンドを許さなかったはず。やりたいことを達成した、みごとな人生だったと思います」◆取材・構成/佐久間文子※女性セブン2019年3月28日・4月4日号森瑤子の帽子
2019.03.14 16:00
女性セブン

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