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刑事が変死体現場に向かう際に持参する検視七つ道具

「自分で覚えろってね。今、そんなことをしたらいじめだね。死体だって人だから、前から向き合って下ろしてやりたくなるものだ。でもこれが間違いだ。向き合って抱きかかえると、下ろす瞬間、遺体は自分の方に倒れかかってくる。この時、腹の中に溜まったガスや腐乱した体液が一気に口から飛び出てくるんだ。たまったもんじゃない」

「背中側から抱きかかえて下ろせば避けられる。だが後が壁だったり、足場が悪かったり、斜面だったり、状況によってそうもいかない場合もあるからね」

 遺体は死因を判断しなければならないが、刑事も検視官も死亡診断書(死体検案書)は書けない。都内23区は監察医制度により、検案を東京都監察医務院の監察医が行う。H30年度は常勤監察医が13名、非常勤が50名ほどだ。他に大阪府や神戸市、横浜市や名古屋市に監察医制度があり監察医がいるが、それ以外の地域にはいない。

「ここが問題でね。監察医がいない所は、警察に協力する医者が死体検案医として検案する。法医学者ならいいが、ほとんどが町医者でね。自分がいた頃は、検案の経験もなくレベルの低い医者がいて危険だった」

「警察に協力してくれる医者は年寄りが多くてね。夜中でも来てもらわなければならないんだが、酒でベロンベロンに酔っていたりしてね。早く終わらせたいし解剖に回すのは面倒だから、刑事がこうだと言うと、あぁそうですかとこっちの見立て通り終わらせようとする。刑事は遺体の表面しかわからないのに言いなりで、あれでは殺人を見過ごす。パトカーに乗るのが好きという医者は、赤色灯をつけてサイレンを鳴らし緊急車両にしろと言うし…。現場に緊張感なんてまるでなかった」

 今は国や都府県が日本医師会に委託して死体検案講習会を行い、検案医の能力アップを目指しているが、講習会はたったの2日だ。

「レベルが低いまま、遺体への意識が低いままだと、殺人事件が埋もれてしまう可能性がある」と、元刑事は嘆く。これが監察医となると比較にならないぐらいレベルが違い、現場はピリピリした緊張感に包まれるという。

「こうではないかと刑事が言うと、なんでそう思うのか、根拠はなんだと聞いてくる。こっちに思い込みがあっても、おかしい、変だと思う所を徹底して見つけてくれる。監察医は検視する警察官を育てようとしてくれているのがわかるから、こっちも必死に勉強をするしかない」

 警察が事件性が低いと判断した変死体で、検案しても死因が判明しない場合、死因を調べるために監察医による解剖、行政解剖を行う。犯罪死体の場合は、裁判所から鑑定処分許可書が発行された上で解剖が行われる司法解剖になる。H29年度、東京都監察医務院での検案総数は13118件、そのうち解剖数は2099件、中には他殺が25件あった。

 解剖されなければ、もし犯罪であってもその証拠はなくなってしまう。きちんと検視、検案されなければ解剖もされない。死因を究明するための組織も人材も、まだまだ足りないのが現状だ。

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