客車の車体は中国国内の在来線と同じ型。各ドアの前に女性車掌が立つのも中国式だ(撮影:安田峰俊)
ナイロビからモンバサまでのSGRは、午前8時20分発の普通列車「インターカウンティ」と、中間の駅をすべてすっ飛ばして走る午後2時35分発の急行「マダラカ・エクスプレス」のわずか2本しか運行していない(各車両ごとに1日1往復している)。
区間距離の472キロメートルは東京~京都間の新幹線の実キロ(実際の距離)とほぼ同じだが、新幹線のぞみ号が2時間20分で京都に着くのに対して、マダラカ・エクスプレスは5時間ほどかかる。
もっとも、ほぼ同じルートで従来稼働していたウガンダ鉄道の路線は、1903年の営業開始から1世紀以上が経ち、所要時間は8~12時間(さらに出発が7時間近く遅れることもある)という非常に劣悪な状態だった。時速100キロ以上の走行と定時運行ができるSGRは現地にとってかなり画期的な交通手段であるはずだ。
時間が来たので、マダラカ・エクスプレスに乗り込む。
客車は白地の上下にオレンジ色のラインが何本も入っていた。中国ではあまり見ないカラフルなデザインだが、車体自体は25G型客車という中国国鉄の在来線と同じものが使われており、当然ながら車内の座席や網棚の雰囲気はかなり中国国内の感覚に近い。各ドアの前には制服姿のケニア人女性車掌が立ち、乗客を案内するのも中国と同様の方式である。運転手も中国人だと報じられている。
車内で目を惹くのは、各車両の前後の壁の中央すべてにケニアと中国の国旗がプリントされていることだった。乗客は全員、特にやることもない5時間の列車旅のなかでずっと、頭上の五星紅旗を見つめ続けるわけである。
良くも悪くも中国の列車そのままなので、SGRの乗り心地は悪くなかった。特筆すべきは車窓の光景だ。
始発駅を発車後しばらくは、右手にナイロビ国立公園のサバンナを眺めながら走り続ける。その後は国立公園外の地域を走るが人家はまばらであり、ヤギの放牧地やプランテーションが続く。たまに遠くに山があるほかは、常に地平線が見えるという絶景だ。
3時間ほど走ってマクエニ郡の小都市ムティトアンディ駅を過ぎると、ツァボ国立公園に入る。これは1948年に指定を受けた、面積2万1000平方キロメートルというケニア最大の国立公園だ。旧線であるウガンダ鉄道の線路を挟んでツァボ・イースト国立公園とツァボ・ウエスト国立公園にエリアが分かれているので、新線のSGRも、野生動物の生息地帯の真ん中を突っ切って走っていることになる。