殺処分設備のない動物愛護センターの開設がなぜ可能だったかを語る上條氏(撮影/高橋進)
しかし上條さんは、神奈川県が徹底的に野犬などに対応したからこそ、6年連続殺処分ゼロ、そして殺処分設備のない動物愛護センターの開設が可能だったと考える。
「狂犬病は人間も含め、哺乳類ならどんな動物も発症し、発生した場合は死亡率はほぼ100%の恐ろしい感染病です。日本での狂犬病は昭和32年、猫の発症を最後に根絶されましたが、世界ではいまだに年間5万人以上が狂犬病で亡くなっています。日本でも再び発生することも考えられたし、今もその可能性は充分にあるんです。
ただ、職員はやはり獣医師ですから、なんとか動物の命を助けたいと思った。そこで、講師を招いてスタッフが成犬のしつけ方を学び、しっかりしつけて新しい飼い主を探す『愛犬教室』ということを始めたんですね。
譲渡に奔走しながら殺処分も続けるという矛盾。『何やってんだ!』とマスコミには相当叩かれましたが、そんな騒ぎが人々の動物愛護への意識を喚起した部分もあったと思います。その証拠に、以後、殺処分は激減していったのですから」
◆ボランティアと力を合わせ、殺処分ゼロを6年連続達成
収容犬の譲渡、殺処分激減の立役者となったのが、ボランティアの存在だ。
1972年の犬管理センターオープン時から、殺処分に反対するボランティア団体とは確執もあったが、「死なせたくない」の心は同じ。ボランティアを登録制にして力を合わせるようになった。
収容された動物については一斉に登録ボランティアに連絡が入り、種類や負傷・病気の有無などにより、対応できるボランティアが引き取りに駆けつけるというシステムを設定。特に、子犬や子猫が収容された場合は、センターが夜間は無人になるため、ボランティアや職員が手分けして自宅に連れ帰ることも。譲渡会を開催して新しい飼い主探しに尽力し、2013年度は犬の殺処分ゼロを達成。以後、毎年更新を続け、2019年6月、「生かすための施設」として神奈川県動物愛護センターが誕生したのである。
「新センター開設は、ボランティアのかたがたのご尽力の賜物です。収容できる頭数には限りがありますし、多頭飼育崩壊の時なども、ボランティアのみなさんが自主的に動いてくださるからなんとか運営できているというのが実情です」
◆簡単には引き取らない。安易には譲渡しない