「被害者2人はすぐに暴力団幹部らと判明。しかし問題は加害者が誰かだった。目撃情報を探すと、加害者はアジア系男性とわかったが、それが日本人なのか在日なのか、外国人なのかわからなかった」
元刑事らは周辺の店や目撃者から情報を集めた。場所は歌舞伎町のど真ん中だ。
「事件当日の朝、新宿のスナックで彼らはカラオケをめぐってトラブルになった。だがその場では決着がつかず、夕方、パリジェンヌで話し合いの場を持つことになったが、それも決裂。まあ、当時の歌舞伎町の状況を考えれば、当事者同士だけで話し合うなんて無茶でね。勢いづいていた中国人マフィアが暴力団幹部らをハジいたっていうのがいきさつだった」
事件の概要がわかれば、それを裏付け作業が始まる。すると入手していた情報を裏付ける映像があちこちの監視カメラや防犯カメラから、次々と上がってきたという。
「いさかいが起きたスナックを出た後、暴力団幹部らがどの道を通って移動したか。中国人マフィアらがどこの角を曲がって、どの店に入ったのか。誰と一緒に移動したのか。どのように移動して風林会館まで来たか。そして中国人マフィアがどこを通って、どの方面へと逃げたのか。設置された多くのカメラがその姿を捉えていた。カメラ映像は証拠につながる重要な捜査ツールだと認識を新たにしたよ」
ところが、そうした科学的捜査手法が進んでいくにつれ、捜査員の捜査能力が落ちてきていると元刑事は嘆いた。
「昔は足で探した情報を裏付けするのにカメラ映像が使われたが、今はその逆。これで捜査の勘を磨いたりできるのかと思うんだがね」
靴底を減らし、履きつぶすまで歩いて捜査するというのは、もはや刑事ドラマの中でしか見られないのかもしれない。