【著者に訊け】又吉直樹氏/『人間』/1400円+税/毎日新聞出版
「僕は基本、人間のやることは何でも『おもろい』と思って書いてるんですけど、同じことを見てもそれを『イタすぎる』、『最悪や』言う人もおるし、悲劇か喜劇かは、人が決めることだと思ってます」
又吉直樹氏の初長編小説『人間』は、美術系の専門学校を卒業後、絵と文筆業で生計を立てる〈永山〉が、38歳の誕生日に届いたあるメールを機に、かつて〈ハウス〉と呼ばれる共同住宅で過ごした日々を20年ぶりに回想する形で始まる。
美大生や芸術家の卵など、各々の表現を求めて足掻くハウスの住人たちは、日々創作し、議論し、互いを傷つけることも多かった。例えば芸人志望の〈奥〉は言う。〈才能ある奴なんて一人もいないのかもな〉〈なにかしらの存在であると自分自身を騙した人と、それ以外かもしれへんやん。正直、その可能性に賭けてるとこあんねん〉
才能。その曖昧で絶対的な響きこそが、厄介なのだ。
「僕自身、なりたくて芸人になったのに、食えない生活を呪ってみたりもして、自分でも笑ってしまったことがあるんです。『何してんねん、オレ』って(笑い)。確かに今は器用で賢い大学出身の後輩も増えた。でも芸人になろうっていう人の半数以上は、他のことが何もできひん人やと思うし、『ほな辞めろや』って言われても困るんですよ。『ほな死ね』と同義の言葉やから。
その“誰のせいにもしにくいしんどさ”が僕には面白いんです。面白いには、痛いとか苦しいとか愚かとか、負の要素も含まれている感じはします」