「そんな時、ぼくはこう伝えています。“きみたちが赤ちゃんの時はどうだった? よだれや食べこぼしをいっぱいして、おむつも替えてもらったでしょ? きみたちはどんどんできることが増えるけど、その後はまた力が減って弱くなる。それが人間なんだよ”と。すると2才児でも理解します。目の前に車いすや杖をついたお年寄りがいて、自分たちをやさしく見守ってくれているわけですから」
今の保育園児たちも、やがて大人になってこの超高齢社会を支える立場になる。
「お年寄りに、ご飯を食べさせてもらったりおむつを替えてもらったり、背中をトントンしてもらったことを、ずっと忘れないでいてほしい。大人になって介護に直面した時、ここで知った労りの気持ちを思い出してほしい。それが今後の介護問題解決の糸口にもなると思うのです」
元気に走り回る保育園児と弱りつつある高齢者。手を取り合って遊べば、転倒のリスクはあるし、インフルエンザなどの感染症も怖い。
「今の時代、保育園も介護施設も“安心安全”は提供すべき大切なサービス。そういう観点では高齢者と園児の触れ合いは難しい面も多い。でもそれでは、人として大事なものは育まれないと思っています。保育も介護も、最終目標は幸せになることのはず。多世代が共に過ごしながら助け合って生きる。そんな共生の形を大切にするよう、世の中全体が意識を変えていくべきだと思っています」(井上さん)
江東園では、NPO日本世代交流協会と連携し、交流イベントなどの企画、運営ができる人材、世代間交流コーディネーターの養成も行っている。
●教えてくれた人
・井上知和さん(社会福祉法人江東園江戸川保育園地域事業部門事業部長 社会福祉士・介護福祉士・介護支援専門員)
・渡辺峻さん(江東園江戸川保育園 主任 保育士)
・社会福祉法人江東園/1962年に養老施設として開園し、1976年、敷地内に江戸川保育園を併設。1987年に全面改築・合築し、特別養護老人ホーム、デイケアセンター、保育園の幼老複合施設として開設。世代間交流、共生社会のビジョンを掲げ、地域福祉の拠点となる。
※女性セブン2019年11月7・14日号