歳を取るにつれて、友人の名前、テレビに映る女優から台所にある調味料に至るまで何から何まで「アレだよ、アレ」「アレ持ってきて」と、済ませがちだ。認知症に詳しい蔵前協立診療所所長の原田文植医師が語る。
「生活を共にする妻や子には伝わることも多いため、実際の名前、名称を思い出そうとすること自体が面倒になり、物事への関心を失っていく人もいますが、注意が必要です」
実は、「アレ」という言葉を発した場合、認知症の兆候と考えられるケースとそうではない場合がある。見分けるポイントは「アレ」の名前・名称を数分でも、数時間でも、時間をかければ思い出せるかどうかだ。
「脳は20歳のピークから比べると、70~80歳になると5~10%ほど重量が減る。脳の神経細胞が加齢とともに壊れていくのに伴うもので、なかでも記憶を司る側頭葉の海馬の機能低下があると記憶力が低下します。加齢とともに、どうしても物忘れは多くなる。
時間をかけることで“アレ”が思い出せるのであれば、自然な老化現象である可能性が高い。ただし、長年関係のあった人の名前が思い出せないとか、自分が“アレ”を連発していたこと自体を忘れるようであれば、認知症の原因物質が脳に蓄積し始めていることが疑われます」(眞鍋医師)
“さっき言ってたアレ、なんだっけ?”と関心を失わずに、正しい名称に辿り着く努力を怠ってはいけない。
※週刊ポスト2019年11月22日号